54 / 111
第七章・7
「雅貴さん、あの。怒ってませんか? 昨夜のこと」
「怒るだなんて、とんでもない」
むしろ、心配だ。
そう、雅貴は告げた。
「君の傷ついた心と体を、私がさらに痛めつけてはしないか、と」
良かった。
雅貴さんは、怒ってなんかいなかった!
「僕、初めてでした。あんなの」
優しく抱いてもらえて、嬉しかった。
「私は、君の役に立てたんだろうか」
「……はい。すごく、嬉しかったです」
では、と雅貴は藍の掛布をそっと剥いだ。
「シャワーを浴びて、朝食を摂るんだ。その後、庭園を散策しよう」
「はい!」
バスルームで、藍は体をきれいに流した。
姿見にその身を映すと、胸にはやはりうっすらと傷跡が見える。
でも、もう大丈夫。
「雅貴さんが、この傷をふさいでくれた」
藍は、両腕で自分を抱きしめた。
「どうしよう。僕、雅貴さんのこと」
愛しちゃったかもしれない。
それは、明るい中にも甘美な響きで藍の全身を駆け巡った。
ともだちにシェアしよう!