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第八章 実莉の存在

「雅貴さまでしたら、ただいま庭園を散策中でございます」 『では、どのくらいでお屋敷へ戻られますか?』 「お急ぎのようでしたら、わたくしがお伺いいたしますが」 『いいえ、それには及びません。失礼いたしました』 「……と、このようなお電話がございました」  とは、執事の渡辺の言うところだ。 「電話の主は?」 「妹尾さま、でございます」 「そうか。解った」  庭園を、藍と巡った雅貴を待っていたのは、昨日夕食を共にした妹尾 実莉(せのお みのり)からの電話の知らせだった。 「お友達ですか?」  あどけなく訊いてくる、藍。  少し後ろめたさを感じながら、それでも雅貴は正直に話した。 「昨晩、御一緒だった方だよ。妹尾さまという、政治家の御子息だ」  楽しく雅貴と池の鯉にえさなどあげた藍だったが、その言葉に再びマイナス思考が頭をもたげて来た。

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