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第八章・5
「どうしたんですか? ため息なんかついて」
「あ、いや。何でもないんだ」
心配そうな、藍の表情。
多分、恋だなんて思い付いたのは、この子のせいだ。
(藍くん。君が私の眠っていた感情を呼び覚ましたんだろう、きっと)
『愛しているかもしれない。私は、この少年を』
昨夜、こんなことまで考えてしまったのだ。
「藍くん」
「はい」
「……いや、やはり何でもない」
お茶にしよう。
それだけ言って、雅貴は先を歩き始めた。
後を歩きながら、藍はその広い背中を見た。
(雅貴さん、どうしたのかな。何か、心配事があるのかな)
それが自分を巡っての事とは気づかない、藍だった。
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