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第九章・4
「藍くんは、私の大切な人です。ですから、もう妹尾さんと二人きりで会うことは、できません」
「平さん」
でも、と実莉は往生際が悪かった。
「僕は、平さんのことを良い方だと思っています。将来を共にしてもいい、とさえ思っているんです!」
「ありがとうございます。しかし、私は妹尾さんを幸せにする自信がありません」
「僕は、あります! 平さんと一緒なら、きっと幸せになれると信じています!」
「身に余るお言葉です。ですが、あなたのそのお考えが、私には重すぎる」
二人のやり取りを、身を固くして聞いていた藍だが、その肩に手が置かれた。
「行こう、藍くん」
「は、はい」
席を立ち、個室を出ていく二人を、実莉は黙って見送ることしかできなかった。
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