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第九章・8

 もし、失礼だったらごめんなさい。  そう前置きして、言葉を選んで藍は雅貴に切り出した。 「妹尾さんに、あなたを幸せにする自信がありません、っておっしゃいました。あれは、その場を切り抜けるためだけの言葉ですか?」 「うん……。そうだな……」  ソーサーの縁をなぞりながら、雅貴も言葉を選んでいる風だった。 「本心、と取ってもらって構わない。私は、とても妹尾さんと一緒にはいられない、と思ったからね」  彼はきっと、たとえ私と結婚したとしても、その遊び癖を治すことはできないだろう。 「私に魅力がなさすぎる。仕事にしか生きられない私は、彼を楽しませることができない」 「そんなことは、ありません」  藍は、雅貴と過ごした時間は、全て素敵に輝いている、と訴えた。 「一緒にお食事するだけでも、充分楽しいと思います。僕は」 「ありがとう。だけど、そんなに溺れないほうがいい」 「溺れる?」 「今の藍くんを見ていると、若い頃の自分を思い出すよ」 『何か、あったんですね。雅貴さんの過去に』 『はい。それは雅貴さまに、直にお聞きください。藍さまにならば、お話しなさることでしょう』  まさに今、藍は渡辺の言葉を思い出していた。

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