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第十章・2
まだ20代のころ、雅貴は激しい恋をした。
出会ったのは、平家で開かれた晩餐会。
相手は雅貴より家柄も資産も劣る、2歳年上のΩ男性だった。
控えめで、どこか陰のあるその姿。
抱きしめれば折れてしまうような、華奢な体。
口元の小さなほくろが印象的な、美しい面立ちをしていた。
彼は、大友 佑佳(おおとも ゆか)と言った。
当時の親友・子安(こやす)に引き合わされ、雅貴は佑佳と話をした。
知的な会話は心地よく、雅貴はどんどん佑佳に夢中になっていった。
「本当に、私も若かったんだと思うよ。子安と佑佳、そして私と三人で、よく遊んだ」
「お友達も一緒に、ですか」
「二人きりになるのが気恥ずかしくてね。子安は親友だったから、仲立ちをしてもらっていた」
今夜の雅貴さんと僕、そして妹尾さんみたいなものだったのかな、と藍は思った。
雅貴と藍、二人を繋げるようにふるまっていた、実莉の姿を思い出した。
会話の中心にいた実莉の姿に、子安の影を見ていた。
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