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第十章・5

「ところが、その翌日から佑佳と連絡が取れなくなった」 「えっ?」 「子安も、姿を消した」  雅貴の口元は、自嘲気味に引き攣っていた。 「目の病気なんて、真っ赤な嘘だったんだ。子安も、共犯者だ」  藍の顔色は、さっと青くなった。 「まさか、佑佳さんは」 「初めから、子安と佑佳は愛し合っていた。逃避行の資金を、私からだまし取ったんだ」 「そんな……」  それからの雅貴は、容易に人を信じなくなってしまった。  心に深い傷を負い、誰も愛することができなくなってしまったのだ。  そんな自分を、雅貴は笑う。 「間抜けな話だろう? だからもう、私は恋なんてしないし……」 「違います!」  ぴしゃりと否定した藍を見て、雅貴は驚いた。  その大きな目から、涙をぽろぽろこぼしているのだ。

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