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第十章・6
「雅貴さんは、純粋な人なんです。だました人たちが、悪いんです」
「藍くん」
「あんまり自分を、責めないでください。自分を、嫌わないでください」
「泣かないでくれ」
嗚咽まで洩らしながら、藍は雅貴に訴えた。
「可哀想な、雅貴さん……」
ああ、そうか。
私は、この言葉が欲しかったんだな。
『可哀想な、雅貴さん』
見事にだまされた雅貴を両親はひどく叱り、周囲は嘲った。
憐みの声はあったが、社交界では刺激的な噂話の種でしかなかった。
誰一人として、雅貴を可哀想だと擁護してはくれなかったのだ。
「ありがとう、藍くん」
「う、うぅっ」
「さ、コーヒーが冷めてしまう。飲んで、屋敷に帰ろう」
「はい……」
苦いコーヒーが、さらに苦く感じられる、雅貴の過去だった。
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