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第十章・7
「可哀想な雅貴さん、か」
屋敷に帰り、雅貴は寝室でベッドに横たわった。
欲しかったのは、あの言葉。
そして、一緒に泣いてくれる人だったのだ。
「藍くん、不思議な子だ」
長い間心に膿んでいた辛い記憶が、ふっと軽くなった。
そしてそれは、藍のおかげなのだ。
柔らかな笑みが、ひとりでにこぼれる。
そこへ、ドアを開ける音がした。
「……誰だ」
物音に、雅貴は目をやった。
「雅貴さん」
「藍くん」
パジャマ姿の藍が、そこに立っている。
どうしたんだ、と尋ねる前に、藍はベッドに向かって歩んできた。
「雅貴さん。僕を、僕を」
「まさか、抱いて欲しい、なんて言わないだろうね?」
「その、まさかです」
藍はベッドに上がると、雅貴の隣に横たわった。
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