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第十二章・2
おそらく藍は、コスモスでも持ってくるに違いない、と雅貴は予想を立てていた。
(秋を彩る花と言えば、その辺りが妥当だからな)
失敗の少ない仕事を与え、自信を持たせる。
雅貴が考えた、藍の育成だった。
「僕、がんばります!」
「頼りにしてるよ」
では、と雅貴は席を立った。
「仕事に行ってくる」
「お見送り、します」
「ありがとう」
渡辺や、大勢の使用人とともに、藍は雅貴を玄関のポーチまで見送った。
「行ってらっしゃい」
「行ってくるよ」
雅貴は名残惜し気に、握手をした藍の手を離した。
その姿を、渡辺は微笑ましく見ていた。
雅貴を乗せた車が行ってしまうと、彼は藍に話しかけた。
「藍さまのおかげで、雅貴さまは本当にお元気になられました」
雅貴は、右目を隠していた前髪を切り、両目で物を見るようになっていた。
そのことを、渡辺は喜んでいた。
「他者に御心を開かれた証、とわたくしは考えます」
そして、それを実現させたのは、他でもない藍なのだ、と渡辺は言う。
しかし藍は、少し違う、といつも答えていた。
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