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第十二章・3
「雅貴さんは、渡辺さんやお屋敷で働く人たちには、心を開いていました」
信頼しているからこそ、留守を任せていたのだ、と藍は渡辺に答えた。
「そうでなければ、お部屋に閉じこもっていたんだと思います」
「ありがとうございます、藍さま」
普通であれば、自分の手柄にして鼻高々になるところだ。
そうではない藍に、渡辺をはじめ屋敷の人間たちの評判は良かった。
「まだお若いのに、しっかりした方だ」
「それに、とてもお優しいですよ」
「雅貴さまは、藍さまとご結婚なさるのかしら」
そんな噂まで、飛び交っていた。
藍は自分が周囲にそう思われているとは知らず、いつも金魚の世話や観葉植物の手入れなどに一生懸命だった。
「今度は、お庭を任せてもらえるんだよ」
金魚に、藍は語りかける。
「秋の花、かぁ。何にしようかな。調べてみなきゃ」
書蔵庫の写真集やネットで、藍は秋の素敵な庭園を探し始めた。
「秋と言えば、モミジかなぁ。でも、木を植えるのは大変だし。池の辺りにモミジはあるし」
「やっぱり、コスモスかな。一面のコスモスだなんて、素敵だろうな」
「ヒガンバナもいいな。菊は、どうかなぁ」
独り言を話しながら、藍は考えを練っていった。
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