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第十二章・5
観月会の三日前に、ようやく雅貴は藍の手掛けた庭を見ることを許された。
「藍さまの秋の庭園は、実に素晴らしいものでございますよ」
渡辺は、野点の準備をして奥で待っている、と先に行ってしまった。
「さあ、いよいよヴェールを脱ぐ、か」
「あまり期待し過ぎないでください」
しかし雅貴は、明らかになった庭園を見渡し、深く息を吐いた。
「これは……、何と見事な」
そこには、野趣にあふれた秋の七草が風に揺れていたのだ。
ハギ、オバナ、キキョウ、クズ、ナデシコ、フジバカマ、オミナエシ。
色も形も違う花々が、互いを引き立て合って咲いている。
「素晴らしい。茶の湯で言うところの、侘びを感じるよ」
「渡辺さんもそう褒めてくださって。それで、奥に野点の用意も造りました」
「一緒に、少し歩こうか」
「はい」
二人で、静かに歩いた。
秋風が頬を撫で、もう柔らかくなった日の光を感じる。
雅貴が、そっと藍の手を握った。
「雅貴さん」
「こうやって、誰かの手を握って歩くのも久しぶりだ」
「僕は、初めてです」
嬉しいな。
ずっと、こうしていたい。
藍は、そう考えていた。
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