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第十二章・6
「ずっと、こうしていたいな」
「あれ?」
「どうした」
「僕も、同じことを考えていました」
それには言葉で答えず、代わりに温かなキスが藍に贈られた。
「三日後の晩餐会だが」
「はい」
「君を、私の婚約者、と紹介してもいいかな?」
「え……!?」
婚約者。
それって、つまり。
「藍。私と結婚してくれ」
「雅貴さん」
「必ず君を、幸せにしてみせる」
目の前の雅貴の姿が、ぼやけていく。
藍の目には、涙が浮かんでいた。
「僕みたいな人間で、いいんですか?」
「藍だから、いいんだ」
「でも僕は。家柄とか、お金とか、全然」
「そんなものは、二の次だよ」
私は、藍の人間性に惚れ込んだ、と雅貴は静かに、だがはっきりと言った。
「暗い沼の底をさまよっていた私を、救いあげてくれたのは、間違いなく君の真心なんだ」
雅貴の、藍の手を握る力が強くなった。
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