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第十二章・7

 おそらく、と雅貴は熱を帯びたまなざしで続けた。 「初めて会った時から。藍、君を愛しているんだ。私は」  でなければ、声を掛けたりしない。  その身を、保護したりしない。  いつまでも、屋敷に住まわせたりはしない。 「あの雨も、裸足の君も何もかも。私の運命だったんだ」  運命のつがい。  そんなおとぎ話さえ、雅貴は口にした。 「生まれた時から結ばれることが決まっている、αとΩ。私たちは、そんな運命のもとに」 「雅貴さん」  は、と雅貴は我に返った。  夢中で藍を口説いている自分に、気が付いた。 「すまない。君の返事を、聞かせてほしい」 「お話しを遮って、すみません。でも僕は、運命のつがいでなくても雅貴さんのことが大好きです。愛してます」 「藍……」 「結婚、してください。僕と」 「ありがとう、藍」  淡く香る花畑の中で、二人は抱き合った。  その姿を、そっと見守る目が。 「雅貴さま、藍さま。おめでとうございます」  渡辺はただ、あふれる涙をぬぐっていた。

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