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第十三章・2

 約束の時刻の1時間後に、継父はようやく現れた。 「まいったよ。その恰好ではお入りになれません、なんて言われてさ」  一度家に帰って、着替えて来た。  そう言う彼は、一応スーツを身に着けている。  だがシャツは皺が目立ち、ネクタイは曲がり、靴には埃がうっすらと積もっている。  普段、どれだけ自堕落な生活をしているかがうかがえる、藍の継父だった。 「および立てして、すみません」 「いいのいいの。あんたが、藍を誘拐してたんだな?」  こんな高級ホテルを使うような雅貴を、継父はちゃんと値踏みしていた。 「拉致監禁。警察沙汰にされたくなければ、俺の言うことを……」 「お継父さん!」  藍は、悲鳴を上げていた。 「雅貴さんは、僕を保護してくださってたんです。誘拐だなんて、そんな!」 「あ~、はいはい。お前はすぐに、家に帰れよ。また稼いでもらうからな」  その言葉に、雅貴はすばやくテーブルの下で藍の手を握った。 『大丈夫。私がついてる』  そういう、力強い手だった。 「その前に、私の方からお話があります」 「ん? 一応聞こうか。言い訳を」  どこまでも食えない、継父の言葉だ。  だが次の瞬間、彼の態度が変わった。

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