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第十三章・4

「雅貴さん」  か弱い藍の声に、雅貴はうなずいた。  その眼差しは、私にまかせておきなさい、と言っているかのようだった。 「さて、この同意書がある限り、あなたはもう藍くんに指一本の手出しもできません」 「な、何!?」  よく読まなかったのですか? と雅貴は涼しい顔だ。 「もし万が一、契約を破った時は弁護士が動くことになる」 「ちょ、待て。契約? 弁護士?」 「あなたは即刻、警察の御厄介だ。それをお忘れなく」  だましやがったな、と継父は鼻息が荒いが、後の祭りだ。 「10億円は、くれてやる。宝くじに当たったとでも思って、大事に使うんだな」  捨て台詞を放ち、雅貴は藍の手を引いて立ち上がった。 「ま、待て」 「二度と私たちの、藍の前に姿を見せるなよ。いいな!」  後を追おうと立ち上がり、歩きかけた継父だったが、すぐに雅貴のボディガードに阻まれた。 「く、そぉ……ッ!」  振り向きもせずホテルを出ていく雅貴と藍の背中を、継父は歯噛みして見送るしかなかった。

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