98 / 111
第十三章・5
「これで藍は、真に自由だよ」
「ありがとうございます、雅貴さん。でも……」
「ぅん?」
「10億円だなんて」
いいんだ、と雅貴はうなずいた。
「半端な金を握らせると、後々厄介だ。もう二度と、彼の顔を、藍に見せたくないからね」
後は書類をそろえて、婚姻届けを出して、と笑顔の雅貴に、藍は面食らっていた。
(お金持ちだと思ってたけど。解ってたつもりなんだけど、半端じゃない!)
なにせ、10億もの大金を、軽く使ってしまう人なのだ。
「あの。雅貴さん」
「何だい」
「僕、雅貴さんのパートナーとして、ちゃんとやっていけるでしょうか」
「もちろんだ」
「でも、あの。家計のやりくりとか」
それは大丈夫、と雅貴は藍の頭に手を置いた。
「ちゃんと会計士がやってくれるから」
「じゃあ、一つだけ」
「何かな」
「無駄遣いは、ダメですよ?」
ああ、解った。
雅貴は晴れやかな笑顔で、藍の髪を撫でた。
ともだちにシェアしよう!