100 / 111

第十三章・7

 晩餐会の席で、藍は雅貴に婚約者だ、と紹介された。  人々はざわめき、拍手をし、口々に彼を褒め称えた。  あの素敵な庭園を、考案した人物なのだ。  藍は質問攻めにあった。 「どちらの白沢さまかしら。シラサワグループ?」 「どのような経緯で、平さまとお知り合いに?」 「学校は、どちらを出ておいででしょうか?」  それらに、一言も答えることができない藍だ。  青くなって下を向いていると、傍に雅貴が立った。 「皆様に一つだけ。藍は、何の背景もない孤児です」 (雅貴さん) 「ですが、彼は私を、長年さまよっていた暗い淵から引き揚げてくれました」  それだけで、皆さんの御心には、彼がどのように素晴らしいかお分かりでしょう。  雅貴の言葉には、反論できない響きがあった。  彼を暗い淵に突き落としたのは、他でもないこの社交界なのだ。  だからこそ、雅貴は社交界の外に救いを見出した。  そのように、客人は解釈した。

ともだちにシェアしよう!