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第十三章・8

 誰からともなく拍手が上がり、口々に二人を祝う言葉が紡がれた。 「素敵ですわ。お二人とも、末永くお幸せに」 「愛あればこそ、ですな」 「お似合いでございますよ、とても」  ありがとうございます、と雅貴は微笑み、藍の肩を抱いた。 「藍、皆さんが祝福してくださったよ」 「雅貴さん、僕」  藍は、涙をこらえて笑った。  晴れやかな雅貴の笑顔に、涙は不要と思った。 「雅貴さんの心に振る雨も、上がったんですね」 「そうだな。うん、そうだよ」  実莉と子安に裏切られた悲しみも、社交界が嘲笑った屈辱も、全て藍の笑顔に流された。  雨雲は、晴れたのだ。  そして自分が誓ったように、藍もまた、再び雨が降り始めれば私の傘になってくれるに違いない。 「さあ、皆さん。どうぞ心ゆくまでお楽しみください。名月を、愛でてください」  雅貴の挨拶は終わり、それぞれが歓談や食事を始めた。 「藍も。食事を美味しくいただこう」 「はい、雅貴さん。そして、お月様を観ましょう」 「どちらかと言えば、私は藍を愛でていたいところだけどね」  笑い合い、二人でグラスを合わせた。

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