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第十四章・7
「でも、雅貴さん。僕を進学させてくれてありがとうございます」
「本音を言えば、大切に屋敷にしまっておきたいところだ」
宝物のように。
いや、雅貴にとっては本気で宝物だ。
「では、その宝を守るドラゴンは、このわたくしですかな」
「渡辺に任せておけば、大丈夫だろう」
「雅貴さんは、ラスボスですね」
これまでにしよう、と雅貴は声を立てて笑った。
「本当に、勇者が藍をさらいに来たら、大変だ」
勇者、か。
その称号は、雅貴さんにこそふさわしい、と藍は考えた。
(僕を救ってくれた、勇敢で優しい騎士)
「雅貴さん」
「何だい」
「これ、僕からの贈り物です」
何と、と雅貴はテーブルの上に置かれた箱に目を円くした。
「今日は何かの記念日だったかな?」
「なんでもない日、ですけど」
何でもないこんな穏やかな日常が、いつまでも続きますように。
「さすが藍はいいことを言うね」
ラッピングを解いた中には、温かみのある赤い絵柄のマグカップが出て来た。
「僕が絵付けしたんです」
「なるほど。だから、金魚か」
金魚は、屋敷に来て間もない藍が触れ合った、思い出のアイテムだ。
雅貴は、マグを手のひらで大切に包んだ。
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