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第4話

 僕達生存者が、隣村だったスイット村に逃れてから、四年の歳月が経過した。  二十一歳になった僕は、大陸新聞で、ジェイスを筆頭にした勇者パーティが魔王城に迫っていると知った。今は、自然と両頬が持ち上がる。ジェイスが頑張っているのだなと思うと、毎日に気合いが入る。  快晴の空、雲は無い。  僕は今日も一人で、嘗てクレアシオンの村があった場所へと向かっている。  少しずつ、一歩ずつ、僕は村を立て直そうと頑張っている。  約束したからだ、ここで待っていると。  本音を言えば、もうジェイスには、約束なんか忘れて欲しいと思っている。村の事も僕の事も全部忘れて、何かに煩わされる事無く、思う存分夢を叶えて欲しい。 「覚えてるかどうかも分からないけどね」  一人苦笑を零し、僕は木材を手に取った。すると正面で釘を打っていたガイルが片目だけを細めて、不審そうに振り返った。 「何がだ?」 「ううん。何でもないよ」 「どうせまたジェイスの事だろ」 「ち、違うよ!」 「ファルカは分かりやすすぎて、全部顔に書いてある」  腐葉土色の髪をしているガイルは、この四年間でますます大きくなった。口を開けばジェイスの悪口ばかり言うのに、村の復興作業を始めた僕を見かねて、手を貸してくれるようになった。  最初は僕一人、それからガイルと二人、その内に生存者の中で動ける者は、なんだかんだで、クレアシオンの復興に携わってくれるようになった。 「あの馬鹿も、さっさと魔王を倒せって話だよな。仕事が遅すぎる」 「そんなに簡単に倒せたら苦労しないって」 「ファルカはジェイスに甘すぎる。あいつは勇者を名乗ってるんだぞ? まったく恥ずかしすぎるだろうが! 村の恥!」  ガイルは本当に口が悪すぎると思う。騎士ごっこの最中に、木の枝でジェイスに頭を叩かれた事を恨んでいるからなのかもしれない。 「さっさと帰ってこないと、ファルカは俺が貰っちまうぞ」 「何言ってるの?」 「ジェイスが馬鹿だって繰り返してるだけだ」  そんなやりとりをしながら、だいぶ形になってきた村を見る。  折角だからと、歪だった田畑は、綺麗に整形した。  戻る予定の住人の家と――焼け落ちてしまったジェイスの家は、既に建ててある。  ジェイスのご両親は、僕の両親と同じで疫病で亡くなっていたから、僕が勝手に管理をしていた嘗ての家の面影は……あまりない。  帰ってきたら、これではジェイスもがっかりするかもしれない。  ジェイスは旅をしているから、手紙も届かない。  訃報や、もう昔の村が無い事を、ジェイスは多分知らない。正直、知らないままの方が、幸せなんじゃないかなって僕は思う。 「――今朝の大陸新聞、見たか?」 「うん。僕は毎朝新聞を見てるよ」 「魔王討伐が無事に終わったら、お姫様と勇者が婚約するかもって出てたけど」 「そうだね。これでジェイスも、王族かぁ」 「……ファルカは、それで良いのか?」 「幼馴染の大躍進は嬉しい事だよ」 「幼馴染、ねぇ。ふぅん。でもジェイスは旅に出る時、お前に『待ってろ』って言ってたのに。だからお前だってこの村にこだわってるんだろう?」 「ガイル。無駄口を叩かず、釘を叩くように」 「へいへい」  ガイルは特別追求するでもなく、素直に金槌を動かし始めた。  ――大陸新聞に、『魔王討伐成功』という見出しが躍ったのは、その翌年の事である。

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