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第14話

 指先の傷を消毒され、絆創膏を貼られる。 「こんなもんかな? もし膿んできたり、痛くなってきたらすぐに言うんだよ」  帰宅した後、救急箱を持った花村が静の部屋に現れ、約束通り、指先の怪我を手当てしてくれた。  深かったら縫わなきゃ、と言われていたので、ちょっと怖かったが、そういうこともなく、消毒と絆創膏という軽微な手当てで済んでホッとしている。  花村に手を触れられている間、静はドキドキしっぱなしだった。花村の手は暖かく、大きい。そして優しい手つきで静に触れてくる。 (これは手当てしているだけだ、ドキドキするな……)  そうは言っても、好きな人に触れられているのだから、緊張してしまう。 「それじゃ、僕は自分の部屋に帰るから」  暖かな手は静から離れる。救急箱を片付け、花村が出て行こうとした。  花村が帰ってしまう。  そう思うと、もっとここにいて欲しい、という思いが湧いてくる。  背を向け、立ち上がろうとした花村の服の裾を静は掴んだ。 「何、どうしたんだい?」 「帰るなよ……ここにいてくれ」  花村は振り向く。心配そうな顔をしている。 「やっぱりどこか痛いんじゃ……」  察しの悪さに思わず怯みそうになる。  静は思い切って、自分から花村へ口付けた。 「んっ、ふ、ぅ……」  舌先で唇を突けば、開いた唇の隙間から出てきた分厚い舌に絡め取られる。花村は静からの口付けに応えてくれた。  腰を抱かれ、敷きっぱなしの布団の上に押し倒される。その際も口付けは止まない。どんどん深いものに変わっていき、静は身体の力を抜いた。  もう何も考えられない。以前にしたキスとは違い、花村は静が上手く息継ぎできるように調整してくれていて、その優しさにも身体の奥が切なくなってしまう。  鼻にかかった、甘えたような声が恥ずかしい。けれどキスに夢中になっていくにつれて、だんだん気にならなくなっていく。  この先も、花村ならしてくれるかもしれない。 (あ……勃ってきた)  静が背中に手を回し、もっと花村と密着しようとした時だった。 「っ、だめだ」  唇が離され、同時に身体も引き離された。  何が起きたのかわからず、静は身体を強張らせる。 「ちょっと頭を冷やしてくる。すまない」  そう言うと、花村は救急箱を持って、部屋から急いで出て行った。  呆気にとられ、ポカンとしていたが、自分が熱に浮かされて、何をしたのかを自覚すると、顔に熱が集まってくる。  しかしキスだけで反応していた自分の下半身を見て青ざめた。 (同じだ……)  元彼も同じだった。キスまではできたが、静が勃起しているのを見て、男性だと認識し、静を拒否した。  身体を密着させた時、勃起した静自身が花村の身体に当たり、熱が冷めたのだろう。  裏切られた気分だ。結局、花村も静の綺麗な顔に惑わされていただけ。勃起したことを知ると、『無理』になった。 「クソ、クソっ」  さっきまでは堪えられていた涙が溢れてくる。  人生で二度目の失恋だ。こんな顔でいいことなんかひとつもない。  静は目元を腕で擦る。一目惚れしたなんて言う男を好きになるからだ、と自分で自分を責めた。

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