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【12】-5

 熱で火照る顔を左右に振った。  もう一方を口に含んだ清正が、尖らせた側を長い指で摘まんで捻る。 「あ、……」 「……感じてる」 「う、嘘だ……」  両手で口を塞いで声を封じた。  片側を歯で軽く噛まれ、もう一方は周囲に円を描くように指先で触れられ、もどかしさを覚える。  時おり、不意を突くように先端を弾かれると、塞いだ手の間から声が零れた。 「あ、ん……」 「いいな。開発のし甲斐がある」  バカ、と文句を言った声が、思いのほか甘かった。  なんだかいたたまれない。  下肢に熱が集まり始め、隠すように膝を擦り合わせる。口元を押さえていた手を掴んでどかされ、深い口づけを与えられた。  絡み合う舌に夢中になっているうちに、兆した場所に大きな手が忍び寄り、包むようにして撫で始める。  光は、ぎょっとした。  思わず清正を押し退け、勢い余って蹴り落としてしまった。 「おまえ、ひどい……」 「ごめ……」  許さない、と起きあがり、再び覆いかぶさってきた清正が、胸のあたりを何度かきつく吸い上げる。 「あ……っ」  白い肌の上に、赤い花が咲いたような印が刻まれた。  花は次々に生まれたが、いくつ目かの印を刻んだ後、清正は光の胸に頬を押し付けたまま、唐突に目を閉じた。 「清正……?」  どうした、と様子をうかがう。清正がぼそりと言った。 「俺、なんか、酔ってるかも……」 「だから、さっきから、そう言ってるだろ!」 「勃たないかもしれない」 「勃たなくていい」  というか、勃つ必要などないはずだ。 「でも、せっかく光が……」  股間に伸ばされる手を、「いいんだよ!」と払い落した。ドキドキする心臓と恥ずかしさとで顔が赤くなるのがわかった。 「おまえ、酒飲むとエロくなる……」 「ホントは、いつもエロい……」  どういう返事だ。  胡乱に思って睨むが、清正はまた目を閉じてしまう。そのまますうすうと寝息を立て始める。   「清正、こんなとこで寝ると風邪ひく」 「うん……」 「スーツ、脱がないと皺になるし」 「……光が、脱がせて」  ソファからごろんと落ちた清正が、ラグの上で大の字になりながら手を伸ばしてきた。  なんなんだよと呟きながら、上着とスラックスを脱がせて、ネクタイを外した。  ワイシャツ一枚になった清正は、ふにゃりと笑ったかと思うと、豪快にいびきをかき始めた。 「ほんとになんなの、おまえ」    返事はない。  無駄に手足の長い大男を軽く足で転がしてラグの真ん中に寄せた。押し入れから布団を出してきて、その上にかぶせる。  エアコンの温度を一度上げて、明かりを消した。 「風邪ひくなよな……」  スーツを持って階段を上がりながら、ふうっと息を吐きだした。  ふと自分の胸元を見下ろして、光はぎょっとした。パジャマの襟の隙間から赤い痕がくっきりと見えている。 「た、ただの鬱血だ」  それがこんなに艶めかしく、心臓をドキドキさせるものだったとは知らなかったけれど。

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