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【13】-3
受け取った袋を見て、「あれ?」と思った。
昨日清正が持って帰ったものと同じだった。ネコの絵が描かれていて、なかなか可愛らしいデザインの袋だ。
「平瀬の『どら屋』……。よほど美味いどら焼きなのか?」
紙袋を手渡した指に透明の石が光っていたのを思い出す。
特徴的な大きな爪の形は、ヘプバーンの映画で有名なニューヨークのブランドのものだ。
トンボのステンドグラスランプを直接見たくて、デザインの勉強も兼ねて、本店まで行ったことがある。
指輪は左手の薬指で光っていた。朱里と清正は大学の同級生だと聞いたから、年は光たちと同じくらいだろう。
二十七なら再婚の話があってもおかしくない。
一度上沢の家に帰ってから、クルマで秩父に向かった。平日なのでほかの職人も何人かいたが、村山自ら光を迎えに出てきた。
「試作か?」
「うん。今、いい?」
いいぞ、と軽く頷いて奥の事務所に向かう。事務所の中には、かすかにスパイシーな香りが漂っていた。
「堂上のとこのコンペに出すんだろ? なかなか来ないから、俺の出番はないのかと心配したぞ」
「ないわけない」
光はスケッチブックを手渡した。
村山はパラリ、パラリ、と一枚ずつゆっくり捲ってから、呻くように言った。
「おまえ、やっぱりすごいよな……。これ、絵として見ても、普通にすごいぜ。しかも、製品として出来上がったらめちゃくちゃカッコイイな」
「CGのほうが、記号としてわかりやすいかなとは思ったんだけど」
「いや、こっちで十分だ。つーか、よくこれだけ描けるな。CGじゃ伝わらない、繊細なニュアンスまでわかる」
それは村山のほうにも、受け取るための力と感性が備わっているからだ。
「この中の、どれをうちで試作するんだ?」
いくつかを選び出し、村山の意見を聞く。
「この青い石、合成コランダムを使いたいんだけど、どこか、作ってくれるとこあるかな?」
「人口のサファイアか……。知り合いで作れる奴がいるにはいるな」
「よかった」
実は当てにしていたと正直に言った。村山は工学部の出身で、光や堂上とは違う人脈を持っている。
「ラ・ヴィ・アン・ローズより高級路線で売るって社長が言うし、予算は自由だって言うから、本物で作ってやろうかと思ったけど」
「それじゃ、宝石の値段になっちまうだろ」
「そうなんだよ。それに形や大きさや数も思い通りにしたいし」
石のほかに、装飾を内包させる際の技術的な話を少しした。村山のアドバイスは的確で、仕事も確実なので安心して話を進めることができた。
「こっちの銀細工はどうするんだ?」
「自分で作ろうと思ってる」
「だいぶ細かそうだな」
「うん。だから、今からできる職人さんを探しても、間に合わないし」
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