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【20】ー2

「いなくなったって……、どういうことだよ……」  絞り出すように清正が言った。 『今、保育所から連絡があったんだ。汀が来てないって』  時計を見ると午前十時を回ったところだった。  保育所に送ったのは八時過ぎで、いつものように込み合うエレベーター前で手を振って別れたと清正は説明する。  けれど、その後、汀は保育所の中に入っていかなかったらしい。  そんなことが……、と思うけれど、エレベーター前から入り口までのわずかな距離を、汀はいつも一人で入口まで走っていたのを思い出す。  混み合う時間帯だから、ほかの子どもたちの後ろに並んでいる姿を見たところで、光も清正もほかの保護者に場所を譲るようにその場を離れていた。  中に入るのを確認せずに。  何の連絡もなしに汀が休むことは今まで一度もなく、毎朝保育所に顔を見せる時間もほぼ決まっている。  時間を過ぎても姿を見せない汀のことを、職員は一応、気にしていたようだ。  けれど、もう少し待てば来るかもしれないと、あるいは連絡があるかもしれないと頭の隅で考えながら、次々にやってくる子どもたちを迎えることに忙しかった。  朝の通所ラッシュが一段落した時、汀がまだ来ていないことに改めて気付き、誰も連絡を受けていないことを知って、ようやく清正に連絡があった。  それが十時頃。 『職員さんたちの中で、外に出られる人が手分けして探してくれている』  清正の声を聞きながら、だけど、あのあたりには小さい子どもが一人で入れるような建物はないはずだと光は思った。 『交番やビルの警備室にも聞いてもらっているが、迷子らしき子どもを見たという情報は、今のところないらしい』 「清正、おまえ今、どこにいるんだ?」  近くにいるならすぐに探しに行けと言うつもりだった。  しかし、清正はかすれる声で『新幹線の中だ』と答えた。日帰り出張で大阪に向かっているところだと苦しげに言う。 『名古屋で折り返す。俺が帰るまでの間、わかる範囲でいいから汀を探してくれないか。おまえにも仕事があるだろうけど、頼む……!』 「わかった」 『もう一度、保育所の近くにいないか聞いてみて、いなかったら上沢の家のほうを当たってくれ。向こうに帰ろうとしたのかもしれないから』 「うん。念のため、前のマンションも見てくる」 『悪い。頼む……』 「何かあったら連絡する。すぐ出られるようにしといてくれ」  わかったと力なく答えて、清正は通話を切った。  光はすぐに家を出た。  最初に、二月まで清正たちが住んでいたマンションに向かい、大家でもある管理人に事情を話して様子を聞いた。  汀の顔は知っているが見ていないと言われ、もしここに来たら知らせて欲しいと頼んで、光の携帯番号を伝えた。  次に保育所に向かった。  この時間までにどこを探したのかを聞いて、まだ探していないところから探そうと思った。  強化硝子のドアを押して光が駆け込むと、すぐに職員が走り寄ってきた。 「汀くんのお母さま……」 「汀は……」  一瞬、お互いに怪訝な顔になった。

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