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【20】ー6

 事件に巻き込まれた可能性については、とても恐ろしくて考えられなかった。  上沢駅に着くと、まず駅員に汀らしき子どもを見なかったか聞き、駅前交番にも行って、うまく言えないなりに事情を話した。  どちらでもこれといった収穫はなかった。周辺の店舗をくまなく覗いてみたが、結果は同じだった。  毎朝汀が通る道を走る。時々スマホを確認したが、どこからも連絡はこなかった。  いつかの幼稚園で立ち止まり、園庭をざっと見回してみたが、そろいの園児服を着た子どもしかいないようだった。  ポケットでスマホが震え、慌てて表示を見る。  清正のマンションや保育所の番号は登録してある。まったく関係のない番号が表示され、こんな時にと苛立ちを覚えながら、一度通話状態にしてすぐ切った。  今は無駄な電話には出たくない。あれこれ説明するのは苦手だし、する気になれない。   汀のことしか、光の頭にはなかった。  上沢の家に着くと、すぐに庭に回った。  そこにも汀はいなかった。  汀は鍵を持っていないはずだが、念のため家の中も探してみる。  まだこの家の鍵を返していなかったことに気付いて、後で返さなければと頭の隅でぼんやり思った。  家の近くを探しながら、いつも汀を連れてゆく公園に向かった。  話したことはないけれど、毎回会釈を交わす母親たちと、少しは顔見知りになっている。いつもと違う時間帯だったが、もし彼女たちのうちの誰かがいれば、汀を見なかったか聞いてみようと思った。  時間帯が違うせいか、公園にいる母親の顔ぶれはだいぶ違った。  それでも、知っている顔を三人ほど見つけて、光は彼女たちに近付いた。 「あの、すみません」  初めて声をかけた光に、母親たちが驚いたように振り向いた。  少し怯むが、頑張って口を開いた。 「午後に、ここでよく遊ばせてる、茶色い髪の子どもを見かけませんでしたか」  戸惑ったように顔を見交わす母親たちを見て、汀のことを覚えていないのだろうかと不安になった。    しかし、母親の一人が言った。 「汀ちゃん、ですよね?」 「あ、そうです。このあたりで、見かけたりしませんでしたか?」  三人は再び顔を見合わせ、首を振る。 「何かあったんですか?」  保育所からいなくなったのだと話すと、母親たちは一斉に驚きと心配の表情を浮かべた。  保育所の周辺を探しても手掛かりがなく、そちらの駅の改札を抜けた可能性があったので上沢を探しているところだと説明した。  真剣な顔で耳を傾けていた彼女たちは「もしも見かけたら連絡します」と言って、それぞれスマホを取り出した。 「お願いします」  深く頭を下げて、連絡先を交換した。  登録先に名前を入れようとした母親の一人が何気なく呟いた。 「汀ちゃんの……、ママかと思ってたけど、パパだったんですね」  すみません、と曖昧に笑われて、光は首を振った。 「あ、違います。父親でもなくて、俺は……」 「親戚の人か何かですか?」  説明するのが難しすぎたので、とりあえず頷いた。 『汀ちゃん、親戚の人』と登録されるのを見て、「お願いします」と頭を下げて公園を後にした。

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