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【20】ー7

 ほかにどこがあるだろう。  探せる場所を必死で考えた。  汀が自分一人で行けそうな場所は、もう思いつかなかった。  どこか知らない場所で迷子になっているのだと思い、それ以上の危険に晒されている可能性を思うと、胸が押しつぶされそうになった。  保育所からもマンションの管理人からも、連絡は来ていない。  万策尽きた思いで、とぼとぼと駅に向かって歩いていた。  保育所のあるA駅で、改札を抜けて下りのホームに向かった子どもは汀で間違いない気がする。四歳の子どもが一人で電車に乗ることは多くないし、青いリュックも目印になる。  しかし、上沢駅ではそれらしい子どもを見たと言う駅員はいなかった。  上沢駅はそれなりに栄えているものの、A駅と比べればはるかに小さい普通の私鉄駅だ。乗客の数もずっと少ない。  それでも、何人かいる駅員の誰一人、一人で歩く子どもの姿を見たという者はいなかった。  迷子の届けも出ていないということだった。駅前に交番にも何も届いていない。   汀は、上沢で降りたのではないかもしれない。  A駅から上沢駅まで来る間のどこか、あるいはもっと先で、降りたのだろうか。  それとも、何かがあったのか……。考えたくないが、事件に巻き込まれた可能性もなくはないのだ。  またポケットでスマホが震える。  慌てて画面を確認すると、薔薇企画からだった。  今は仕事の話をしても何も頭に入りそうになかった。井出には悪いと思いながら、さっきと同じように、一度通話状態にしてからすぐに切った。  ふだんも電話に出られないことはあるし、必要ならショートメールを送ってくれるはずだ。  井出には後で謝ればいい。  事情は話してあるので、正直に本当のことを言っても怒らないだろう。  さらに二度、薔薇企画から電話がかかる。  ショートメールかラインを送れよと、心の中で毒づきながら、同じように一度出てすぐに切ることを繰り返した。  諦めたのか、それきりスマホは静かになった。  しばらくして、今度は堂上からかかってくる。これも同じように切った。  呼び出し音が鳴っている間に、大事な電話がかかってきたらと思うと、苛立ちしか覚えない。あとでいくら怒られても構わない。もうかけてくるなと念を送る。  汀の行きそうなところを考えなければならない。  事件の可能性だってあるのだ。邪魔をされると、焦りと苛立ちから八つ当たりに似た気持ちでしか対応できなくなる。  社会人としてダメだということくらい、光にもわかっている。  けれど、一度にいろいろ考えることが、どうしてもうまくできないのだ。  これで仕事が切られるなら、それはもう仕方がない。  どこかないだろうか、ほかに汀が行くところは……。  ぐるぐると回る頭を抱えていると、またスマホが震える。  保育所か、マンションの管理人であってくれと願うが、表示されたのは見覚えのない十一桁の数字だった。同じように切ろうとして、ふと、公園の母親たちの番号を自分はきちんと登録しただろうかと思い、念のため出てみることにした。 『此花光さんの携帯ですか』  若い女性の声が聞こえてきた。  やはり母親たちの誰かだったのだと思った。何かわかったのだろうか。 「はい。あの……」 『私、川村です。川村朱里。わかりますか?』 「川……、え?」  電話をかけてきたのは、朱里……汀の母親で清正の妻だった女性だった。

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