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第4話
2、3回イッたら、頭が冷えた。
小焼も落ち着いたようで、おれの上から退く。
小焼の母ちゃんが送ってきたラブグッズはいっぱいある。今度から試してプレイできるって考えたら、すごくワクワクすっけど、小焼は嫌がるかな。おれはけっこう、乳首のローター好きだな……欲しいかもしんない。
服を整えて、座る。小焼はまだもうちょっと布団に埋まっておきたいようだ。さらさらの金髪を指ですく。やっぱり触り心地が良い。ブラッシングされた後の猫みてぇだ。
視界にカレンダーが入る。記録会はチェック済み。バイトのシフトも書いてある。あとは……文化祭?
「小焼。文化祭って?」
「けいが招待券くれましたよ。お前はふゆから貰ってないんですか?」
「え。あ、あー! 高校の文化祭か! おまえ、誘われたのか?」
「Nano♡Yanoがライブをするそうです。だから、貰いました」
「へぇ。文化祭でのお仕事か! アイドルの下積み営業っぽいな!」
「その前に、演劇部の公演を見て欲しいそうですよ」
そういえば、けいちゃんは演劇部で脚本・演出をやってんだっけ。役者としても演技がバリバリ上手いらしいが、恥ずかしがり屋だからスイッチが入らないとできないって、ふゆが言ってた。
おれも家族招待券をふゆに貰ったから文化祭に遊びに行ける。おっ、これは、文化祭デートだな! 学生時代にやっておきたい10のことに入るぞ!
文化祭は再来週! バイトのシフト希望休出しとこーっと! 小焼とデートするんだ!
高校は別々だったけど、大学になって、学部は違えども、同じキャンパス内にいるから、嬉しい。おれは院生だから時間割も特殊だけど。
「そういや、小焼は何でおれと同じ学校に進学したんだ? 水泳なら雪次のいる大学のほうが有名じゃねぇか?」
「夏樹がいるからですよ」
「ほんとに!? ほんとにそんな理由で決めたのか!?」
「…………」
黙っちまったや。これは、ほんとの反応。
絶対に間違えているなら否定するし、きっと照れ隠しだ。
おれがいるから、おれと同じ大学に……、脳内で反復して、幸せを噛み締めた。嬉しい!
「単に、家から近いですし」
「そりゃあまあ、そうだな」
都会を通って再び山奥の大学に行くよりも、近所の小高い山の大学に行くよな。
おれは、学力的に受けられる医学部がここだったからなんだけど!
小焼なら、色んな学校からスカウトが来ていたはずだ。高校時代も目立っていたし、モテていた。その時は、おれも男が男を好きになるのはおかしいことだって思い込んでたから、頑張って女の子と付き合っていた。女の子とエッチしたかったし、小焼とセックスできるなんて思いもしなかった頃だ。
毎朝見かける姿に胸が熱くなるのは、ちょっと何か背徳感に興奮しているだけだと思い込んでた。禁断の愛やら禁断の恋やら、そういうのが流行った頃だったから、漫画に影響されやすいおれは、押し流されたんだ。
そんでから月日は流れ、おれは小焼に「セックスしたい」と言って……こういう関係になれた。
恋人として、パートナーとして、小焼はおれを見てくれてる。
「そういえば、相談があります」
「相談? 何だ?」
「私達は、将来的にどうするんですか? 結婚するにしても、この国では無理です。良くて養子縁組になるでしょう。祖父の国なら結婚できますが、国籍がややこしくなります。それに……、私は、子供を……産めません……」
「あー、そうだなぁ……。どうすっかなぁ」
なんにも考えてなかった。おれは、小焼の側にいられるだけで幸せだから、結婚のことも子供のことも考えたことがなかった。
しっかり考えておかねぇと。小焼と恋人同士のままで、いつまでも仲良く……。
本当に、それで良いのか?
小焼は、ちっちゃくて可愛い女が好きなはずだ。そういう子と結婚して、孫の顔を親に見せてやりたい、って話を遠回しにされたのか? 遠回しに、別れ話を? そんな……!
「不安そうな顔をしないでください」
「わりぃ。おれ、未来のこと考えてなかったや。時間かかっけど、きっちり考えとくよ」
「はい。待ってます」
何を待ってんだろうか。
無計画に酒に酔った勢いで告白する爆死っぷりだったから……、将来のことなんて、すぐ出ない。
一緒にいて、セックスはすっけど、それぞれに妻がいて……。これだとセフレじゃねぇか! 小焼はセフレは嫌だって言ってたから、セフレは駄目だ!
不安が胸の中ですくすく育っていく。
どうしよう。おれ、小焼にいつか捨てられんのかな。「別れてくれ」って言われるのか?
いいや、おれから言うべきか? 「別れてくれ」「パートナーを解消しよう」って。
駄目だ駄目だ駄目だ! 暗いことを考えちゃ駄目だ!
小焼のスマホが鳴った。おれのことを全く気にせずに彼は電話を取る。
会話を聞くのもわりぃし、ベランダでタバコ吸うか。
ベランダに出てタバコをふかす。肺までゆっくり吸い込んで、口からふーっと吐きだす。少し辛めの味が良い。喉にカッとくる苦味が「タバコ吸ってる!」という気分になる。
携帯灰皿にしまって、部屋に戻る。電話は終わっていた。
「誰からだったんだ?」
「母からでした。ラブコスチュームも考え始めたらしいです」
「おまえの母ちゃん、いろんな事業始めるよなぁ」
「プロデュースして売り込むのは父ですけどね。夏樹がモデルですよ」
「あいあい。なんとなくわかってた」
「Nano♡Yanoも捕まえられたら良いんですが……」
「捕まえられたらって、虫じゃねぇんだからな!」
ビジネスパートナーとしてなら、売出し中のアイドルに声をかけておけば、良いサポーターにはなりそうだ。衣装提供とかもやるだろうし。
小焼は早速けいちゃんに電話しているようだった。
果たして、どうなんのかなぁ……。
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