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第6話

 ドッグランで首輪をして……、なんて、考えちゃ駄目だって! 体がムズムズする。さっき抜いたばっかだってのに、体の中心に熱が集まってきて、芯ができる。こんなんじゃまた小焼にあきれられる。すでに蔑むような視線が突き刺さって、息が乱れる。駄目だ! 落ち着けおれ! 「またしたいんですか?」 「うっ……、ごめん」 「別に謝らないで良いです」 「しばらくしたら落ち着くから、気にしないでくれ!」  とは言うけど、小焼に触ってもらいたいと思っちまう。さっきしたからもうしてくれないと思う。  おれに背を向けて、彼は部屋の掃除を始めた。真面目で几帳面な性格だから、部屋を隅々まで綺麗にしてるんだと思う。18禁の雑誌やDVDもきっちり整頓されている。  他人に見える場所によく置けるなぁ……。おれなんて、母ちゃんにきちんと隠すように叱られたのに。ふゆがあさるから悪いんだけどさ。  ヘッドスペースには、ゴムとローション。小焼ん家で最後にセックスしたのはいつだっけな? 最近は記録会だとかレポート締切が近いだとかで、ご無沙汰だ。兜合わせしたりパイズリしてもらったり、フェラしたりはすっけど、本番行為はできていない。  したいけど、我慢。小焼が『よし』と言うまでは我慢だ。 「仮装で思い出したんですが、奏から貰ったチケットの期限が今日まででした」 「え!? じゃあ、行かねぇとな!」 「インパしてからホテルにしましょうか」 「おう。しっかりデートプランっぽい! 最高!」  このホテルは、ラブホだ。  つまり、セックスする! 久しぶりに、小焼と……できる……。あ、考えたらちょっと出た。おれは中学生か……! 「コスプレ衣装のレンタルがあるそうです」 「へえ。いっぱいあるなぁ」 「残念ながら、私のサイズのバニーは無かったです」 「おまえ、バニー服そんなに着たいなら、ふゆに頼んで、ぴったりサイズの作ってもらうぞ?」 「……考えておきます」  小焼はスマホで件のラブホのサイトを見せながら、話を続ける。スウィーツが美味しいホテルで、女性人気が高いようだ。  望月達が入ってっから同性オッケーのホテルなんだろうけど……やっぱり行くなら車じゃねぇと入りづらいよな。  レンタル衣装は、メイド服やバニー服、学ラン、セーラー服、ブレザーといったもんが並んでいる。有名アニメキャラの衣装もあった。  コスプレAVってなかなか再現度高い作品あるから、名誉毀損で訴えられないか心配になっちまう。  小焼の部屋にもコスプレAVが並んでいる。と言っても、巴乃メイちゃん作品だ。『みんなの妹!』という売り文句だけあって、妹キャラのコスプレが多い気がする。小焼が女優買いしてんのはメイちゃんだけ。あとは気になった作品を買ってるようだった。どれもだいたい強姦モノなんだけど。  数分して、おれは自分家に帰らされ、車に乗ってくるように言われた。おれが運転するのは決定事項のようだ。小焼のバイクなら後ろに乗れっけど、ラブホ入る時にちょっと恥ずかしいよな。  さすがに今のままの服装は駄目だと思うから、パーカーに着替えた。サイズが少し大きい気がするけど、「ちっちゃいのがダボダボの服を着たら『カワイイ』」って、小焼が言ってた。  小焼ん家に向かう。既に家の前で待っていた。やると決めたら行動が早いんだよなぁ。  いつものように、小焼が助手席に座る。窓を開けて、車を走らせる。心地良い風が吹き込んでくる。 「変な服やめたんですね」 「部屋着でインパすんのはわりぃかなって」 「そうですね」  会話終了。  でも、悪い気はしない。無言でも平気だ。小焼は口数が多いほうじゃねぇから、これが普通。だいたいおれから話しかけてるし、普通。  そういや、けっきょく仮装の用意してねぇな。まあ、パークにも何かあるだろうし、それで良いか。 「赤信号ですが、タバコ吸わないんですか?」 「毎回吸ってるわけじゃねぇからさ。そんなら、お言葉に甘えて吸うけど」  小焼なりの気遣いの言葉だと思う。  タバコに火をつけて、ゆっくり吸い、吐き出す。煙が吹き飛んでいく。小焼はスマホをいじっていた。メッセージアプリを開いてっから見るのは悪いな。おれも運転に集中しねぇと。こっから高速道路走らなきゃなんねぇし。  ラジオでは邦楽ロックが流れている。このバンド、新曲出したんだな。アルバムリリースライブツアーしねぇかな? 行きたいな。久しぶりにライブハウスに行きたいや。  次にアニメソングが流れていた。今日はリクエスト祭りをやってるらしい。ラジオ局に音源があるなら流してもらえんのか。良いなぁ。リクエストメールを読み上げられるだけでも羨ましい。  なんだか聞いたことのある声が流れてきた。  奈落の底で生まれた片翼の天使(アンジェラ)ってすげぇ歌詞……。 「Nano♡Yanoの新曲『真喪失ナイトメア』ですね。ラスサビ前のレイのシャウトが良いんですよ」 「おれ、聞いたことねぇかも……」  可愛い2人からは想像できないようなハードロックだ。ヴィジュアル系バンドっぽい。  小焼はきちんと新曲チェックして、推し活してんだなぁ……。この感じだとCDも買ってそうだ。  曲の構成を教えたら、そろそろラスサビかな? Cメロに入ってっし。  …………歌唱力と表現力にビビるシャウトだった。これでレイちゃん推しの人増えそう。ラスサビのメイちゃんのソロパートもやばい。なにこれ、鳥肌もんだ。 「CDにはこの曲のソロバージョンも入っていますよ。アレンジも加わっていて、メイは和楽器アレンジ、レイはシンフォニックアレンジになっています」 「すげぇ……」 「ソロバージョンをリクエストしておこう」  アレンジは違うけど、同じ曲を流してくれんのかな?  小焼はスマホを弄っている。本当にリクエスト送ってる。  ラジオ聞いてる間にリクエストが採用されたら良いなぁと思いつつ、高速をひた走った。

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