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第7話
高速道路を走っている間は寝てはいけない。
夏樹が「ひとりで高速はつらい」と言っていたことがあるからだ。寝ても何も言わないとは思うが、可哀想な気もする。あくまで、気がするだけ。
「寝て良いですか?」
「えー! 高速をひとりで走るのつらいってぇ」
「では、眠気覚ましになるようなこと言ってください」
「難しい注文しねぇでくれよ。眠気覚ましになるようなことって言っても……。あ、そういえば、三橋 が小焼と話したいって言ってた」
「三橋って誰ですっけ?」
聞いたことのあるような無いような名前だ。三橋とは誰だったか。
私の記憶にうっすら残っているのだから、水泳部、だと思う。おそらく。
「おまえなぁ、チームメイトの名前くらい、いい加減に覚えておいたほうが良いぞ。興味が無いって言ってやんなよ」
「無関心なほうがお互いに良いと思います。それはそれとして、どうして夏樹に言うんですか。私に話しかければ良い話でしょうが」
「そりゃそうだけど。……怖かったんじゃねぇの? おまえ、いつもムスッとしてるしさ」
「これが普通です」
「ん。知ってる」
それなら、後半の話は必要無かっただろうが。
話したいって言うなら、話せば良いのに……。夏樹に話すことでもないはずだ。そんなことを夏樹に言ったところで、こいつは優しいから「小焼に伝えておくよ」とでも言ったんだと思う。伝えられても、解決策としては、そっちから話して来いとしか思わない。どうして誰だかわからない相手と話す必要があるんだ。興味が無い。
関われば関わるだけ、傷つける相手が増えるなら、はじめから相手にしなければ良い。ひとりになるなら、はじめから、ひとりで良い。
夏樹も私から離れるかもしれない。……今のところ、離れる雰囲気は無い、と思う。だが、いつか離れるかもしれない。
ひとりは慣れているのに、夏樹がいないのは……、嫌だな。
「とりあえず、今度、練習の時に三橋と話してやってくれよ。皆おまえと話したがってんだから」
「どうして話したいんですか?」
「そりゃあ、小焼は綺麗だし、目の保養になるからだろ!」
「ふざけないでください」
「あはは。ごめんごめん。おまえの泳ぎが綺麗だからじゃねぇかな」
「泳ぎが綺麗なことと私と話したいことが繋がる理由がわかりません」
「綺麗になる方法を聞きたいんじゃねぇの?」
「練習しろ」
「正論だ」
話している間に車はサービスエリアに停まる。
カーナビによるとテーマパークへは後2時間かかるようだ。開園時間ちょうどに到着するくらいだろうか。
小高いところにあるサービスエリアなだけあって、空気が澄んでいた。まあ、元から空気の澄んだ田舎に澄んでいるんだが、ここは地元よりももっと木々の新鮮な空気を吸える気がする。肺いっぱいに冷たい空気を取り入れる。目がしゃんと冴えてきた。
「展望台あるんだって!」
「その前にトイレに行きたいです」
「おれもー!」
というわけで、連れションをした。
そうっと、夏樹の下半身に目をやる。勃っていない。ここで勃っていたら、たいそう変態だ。まあ、しょっちゅう勃起していたら、それはそれで病気ではないか心配になる。夏樹は医者だから、そうなったらきちんと自分で対処しそうだが……、こいつは自分のことになると抜けていることが多い。
トイレを出て展望台へ向かう。
とっくに日の出も終わって、太陽はゆっくり昇っているからか、誰もいない。周りは木が生い茂っている。もう少し遅い時期だったなら、紅葉を楽しめたのかもしれない。今は、なんとも微妙な風景だ。山々の端に雲がくっついていて、ああいう形のパンがあったような気がする。
「やっほー!」
「何してるんですか?」
「やまびこ。こういうとこ来たらやりたくなんねぇ?」
「なりませんよ」
「まあ、おまえならそういうよな!」
へにゃっと笑った顔が、なんとなく人懐こい犬を思い出させる。頭を撫でてやったら、無いはずの尻尾を振っているように見える。
「急に撫でてどうしたんだよ? 嬉しいけど」
「……キスしてください」
「え? お、おう。ちょっと屈んでくれ」
少し屈む。すぐに唇が重なる。
顔が離れる。紅潮した頬がりんごのようで美味しそうだ。
「今更何で恥ずかしがってんですか?」
「だ、だってさ……、小焼から、キスしてくれって言うの、珍しいし……」
「は?」
「ここ、外だし……」
外でキスしているカップルはよく見かけるものだと思う。
駅でよく遭遇する。たまに深いキスをしている奴らを見るので、2人の世界に入っているんだなと思いつつ、真横を通り過ぎてみることもある。いちゃつくなら家かホテルでしたほうがゆっくりできて良いと思う。
人がいるならまだしも、ここは誰もいない。周りに人が全く。
夏樹の頬を撫でて、こちらから唇を重ねてやる。口が開いた隙に舌を挿し、奥に逃げる舌を絡めとり、舐める。
彼の体温が上がってきたのがわかる。首に回された腕があたたかい。
擦りついてきた。硬いものが触れる。手で下腹部をゆるゆる撫でてやるだけで、夏樹から少し高い呻き声が聞こえた。
私の手に彼の手が重なる。
「だ、だめ、だって」
「数時間前に抜いたのに、すぐこうなるんですね?」
「っ、あ! ン、んん……! ふ、ぁこ、ゃぇ……!」
「外でこういうことされるの好きなんですか?」
夏樹の腰が揺れている。まだしたいんだと思う。元から素直だが、体はもっと素直だな。……なんて言ったら、エロ動画のようになってしまいそうだ。
彼は、外で、誰か来るかもしれない、という状況に興奮しているようだ。ズボンを弛めて、手を突っ込んで、直接触る。下着は既に先走り液で濡れているようだった。こんなに濡れるか? と思うくらいには、濡れている。……おあずけさせておくか。
「『待て』」
「ふえっ!?」
「早く行きましょう」
「う、うぅ……、わかった」
夏樹は涙目で頷く。車で続きをしよう、とでも思っているのかもしれない。
……そんなことは、無いんだが。
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