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第12話
パーク内には、色んなアトラクションがあるから、絶叫系が苦手な人も楽しめる! って売り文句があったような気がする。
小焼の手を引いて縁日の出店コーナーに来た。金魚すくい、射的、わなげ、色んな出店がある。おまつりでお馴染みのラインナップだ。
横にはゲームコーナーもあって、バスケットボールやストラックアウトができる。的に当てるって意味では、射的とやること変わんねぇかな。
「何する?」
「あれは当てれば良いんですか?」
「そうそう。全部当てたら景品貰えるんだ。やってみっか?」
「やります」
というわけで、小焼はストラックアウトに挑戦するようだ。野球部がピッチング練習で使ってんのは見たことあっけど……、小焼は野球とは無縁だしな。
左手にボールを握って、振りかぶって、投げた!
フレームに当たったボールが跳ね返ってきて、おれの顔にぶち当たる。なんだこの新手のプレイ! 嫌がらせか!
「大丈夫ですか?」
「いただ……、大丈夫だけど、気をつけてくれよ」
「すみません」
と、おれと小焼が会話している間に、軽やかなBGMが流れ始めた。見ると、フレームへの衝撃で的が全部落ちたようだ。
一球でパーフェクト決めちまった……。景品が転がってくる。いかにも子供が好きそうな恐竜のマスコットだった。
「簡単でしたね」
「正攻法じゃなかったんだけどなぁ」
「余ったボールはどうしたら?」
「流しといたらどうだ? ゲームセットって画面に出てるし」
どういう仕組みかはわからねぇけど、ゲームセットにされていた。あの的、誰かが戻さない限りは落ちたままなのか? スタッフが来るまであのままかな。
小焼は恐竜のマスコットをカバンにつけていた。けっこう子供っぽいところがあると思う。強面だからギャップを感じちまう。可愛い。
おれの頬が緩んでたからか、小焼は少しムスッとした。機嫌損ねたかな? 大丈夫か?
「次は何しますか?」
「あれとかどうだ? パンチングマシーン!」
「力を測れるんですね」
「これで、小焼のぶん殴る力が数値化されるってわけだ!」
「夏樹が測れば良いのでは?」
「おれ死んじゃうだろ!」
「そこまで強く殴れませんよ」
とは言うものの、小焼は力が強いから、おれは死ぬと思う。力加減してても強過ぎるくらいだし。
一応測定はしてくれるようで、筐体に100円を入れて、殴っていた。
「ビービー鳴ってますよ」
「壊れちまったかな」
スタッフが走ってきて、返金対応してくれた。
小焼のパンチ……どんだけ強いんだ。
「なんかごめんな」
「何がですか?」
「いや、その、なんか」
「理由もなく謝らないでください」
それについて謝りたくなったけど、無限ループしちまいそうだからグッと堪えた。
その後は、パーク内をぶらぶら散策して、ふれあいコーナーでアルパカにエサやって、ポニーに乗せてもらって、普通のカップルのように過ごした。
パーク内を歩き回ってるとコスプレイヤーを見かける。おれが何か言えるような身分でもねぇけど、女装するならヒゲの処理はきっちりしろっての。ちょっと気持ち悪い。
小焼はまだシルキーハスキーのコスプレイヤーを探しているようだ。けっこう見かけるんだけど、小焼の解釈と一致しない。はっきり「ブサイク」って言う前に遠ざけなきゃヤバい。良くも悪くも素直だから困る。
「ダウナーコスはいませんね?」
「おっぱいで規制されてんじゃねぇかな」
「それもそうか」
「シンタローとチカはけっこう歩いてんな」
「クオリティについては何も言いませんよ」
「おう。言うなよ」
変なとこで喧嘩になりたくない。傷害事件を起こしたら泳げなくなっから、絶対に止めねぇと。
そうしてぶらぶらしてる間に、シルキーハスキーのコスプレイヤーが遠くに見えた。
小焼は何も言わないが、明らかに顔を見に行こうとするので、ついていく。
「……巴乃レイ、ですか?」
「は、はい! 巴乃レイやの!」
「メイもいるなのー!」
まさかのアイドル2人がコスプレ撮影中だった。
小焼が空気を読んで「けいちゃん」を「レイちゃん」呼びにしたのは、真面目だなぁって思う。
推しを目の前にしたからか、無表情から少し緩まっている。嬉しそうだ。
Nano♡Yanoの2人は、コスプレ写真集を出すらしく、テーマパークに許可を得たうえで撮影中らしい。データ見せてもらったけど、プロのカメラマンが撮影してるだけあって、めちゃくちゃ綺麗だ。
「そういえば、今朝の電話のことですがーー」
小焼は、急に仕事の話を始めた。
母ちゃんのブランドを盛り上げたいって思うからやってんだろな。すんごい親孝行息子だ。離れていても仲の良さを感じる。
近くにいても、おれは……孝行できてねぇな…………。このまま小焼と付き合い続けたら、孫の顔も見せてやれない。どうしよう、今考えるようなことじゃねぇや。
不安で胸がいっぱいになってきた。呼吸が乱れる。こんな時に、何でだよ。おれ、バカだ。
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