17 / 35

第17話

「誠に申し訳ございませんでしたぁあああ!」  夏樹はそう言いながら、床と一体化しそうなほどに頭を下げている。  何であんなことになったのかなんとなく察しはつくし、夏樹の気持ちも身をもって受け取った。あちこち痛むし、叱りつける気もしない。  快感で意識がトぶなんてフィクションだと思っていた。エロ漫画あるあるだと思っていた。……実際にトぶまでは。夏樹は超なんたらスポーツドクターなだけあって、気付けもすぐにできる。泣きだして驚いたが、ぼんやりした頭でゆっくり何が起こったかを理解できた。  そうして、現在に至るわけだが……、彼はまだ床と額を合わせたままだ。 「もう顔を上げてください」 「うん……。ほんとに、ごめん……」 「反省する気があるなら、セックスの回数どうにか減らしてください。身がもちませんよ」 「ごめん! 小焼のこと、好きだから、おれ、我慢できなくなって……! も、もう、しない! 小焼が『やめろ』って言ったら、やめるから!」 「『待て』も聞けないのにですか?」 「うぅぅ……」  大きな瞳が涙で潤んでいる。可愛いと思ってしまうから、私はまだまだ甘い。  それだけ想われてることがわかるし、わかった。ゴミ箱に投げられた使用済みゴムの数いじょに私は想われている。  そういえば――……。 「生で中出ししましたよね?」 「ぁ、ぅ……ごめ、ん……。おれ、駄目って……わかってんのに……抑えらんなくて……っ」  責めてるわけではない。ただ、それだけ切羽詰まっていたのかと思った。  普段絶対にゴム無しですることもないし、やたらと優しく抱くような奴だ。  それが、今日は中出ししている。感染症がどうの、私の体がどうの、騒ぐ医者の彼が、だ。  中出しされた女の気持ちが少しわかる気もした。なんだか、へんに、うれしい。妙な感覚がする。夏樹に腹を撫でられた時も妙な感覚がした。 「もうしない! もうしないから! 約束するから!」 「……生で良いですよ、別に」 「だ、駄目だって! 小焼の負担が大きいし、おれ、がまん、できなく、て……外に、出せない、し……」  ぷるぷる震えながら話す姿が愛らしい。頭を撫でてやりたいが動けない。今は無理だ。  夏樹がしたいようにしてくれたら良いと思う。さすがに回数は減らしてほしいが、生のほうがきっと気持ち良いはずだ。中出ししても私が孕むことは絶対に無いから、気が楽だと思うんだが。  …………腹が、痛い。 「腹が痛い」 「え!? あ、な、中に出したからか!? ごめん! えっと、掻き出す!」 「ばっ、か、ァッ!」  慌ててベッドに戻ってきた夏樹に尻を撫でられて、変な声が出た。 「ひ、ぁっ! アッ! はーーぁっ! ぃ……! にゃ……ん、んんっ、ぃっあ」  ひくついている。夏樹が欲しくなる。こんなの、おかしい。こんなの、私じゃない。  中に出した精液を掻き出しているだけだが、腰が揺れてしまう。孔がひくついてしまう。夏樹の指を締めつけてしまう。  おかしい。あんなにしたのに。気絶するくらいに、したのに。  また気持ち良くて、頭が真っ白になった。  きもちい。夏樹に触られたら、おかしくなる。 「ふぇっ!? イッたのか?」 「ばか! ばかぁ!」 「ごごごごごめん!」  あんなにしたばかりなのに体が熱い。  頭は冷静だと思うのに、体が彼を求めてしまう。これじゃあエロ漫画と同じだ。 「なんかすげぇ出てくる……。おれ、こんなにしてたっけ? 小焼大丈夫か? 腹痛いままか?」 「ぅるさぃっ! ぃっ……! ぁ、ばか!」  もう痛いだとかそういう感覚はどこかにぶっとんでいった。体に力が入らない。布団に埋もれることしかできない。シーツだって汚れているし、このまま寝るのもどうかと思うくらいだ。 「ちゃんと洗ったほうが良いよな……。うーん……」  夏樹は真面目に何か考えている。背筋にゾワリと悪寒が走っていった。なんだか、嫌な予感がする。たまに暴走するから、何をされるかわからない。しかも、治療行為に関しては、彼はプロだ。ホンモノの医者だ。  部屋に備え付けのカタログなんて見てどうするつもりだ。立ち上がって何処かに行ったと思えば、すぐに戻ってきた。手に袋を持っている。これは無菌バックだったか? 中にはチューブが入っているようだ。 「カテーテル売ってた!」 「は、はあ?」 「いやあ、こんなところでカテーテルが売ってるなんてなぁ。やっぱ、こういうプレイする人いんのか? いや、でも、これ本当に医療用だから一般人が使えるとは思えねぇんだけど」 「……それ、何に使うんですか?」 「直腸洗浄!」  元気いっぱいに、いつもの人懐こい笑顔で答えられた。  こわい。なんだか、ひどく怖い。夏樹のことだから悪いようにはならないことはわかっている。これでもホンモノの医者だから。だが、医療オタクでもあるからな……。面倒くさいことに。  よく見れば、カテーテル以外にも色々手に持っていた。 「直腸バルーンカテーテルがあるってすごいよなぁ。ウォーターバッグもついてたし、きちんとコントロールユニットもあんだぞ! ポンプで自由自在に水を出し入れできるな!」 「すごく楽しそうにしているところ申し訳ないんですが、腹痛は治まったので、それは片づけてください」 「駄目だ! きちんとキレイキレイしねぇと!」 「汚したのお前ですよ」 「だからだよ! おれが責任取って、おまえの腹ん中、キレイキレイする!」  ……ひどく後悔した。言わなきゃ良かった。もうあきらめるしかない。夏樹はこうなったら、話を聞かない。自分の専門分野だと活き活きしているから、ちょっと可愛い。 「よし! そんじゃ、ベッド汚しちゃ駄目だから、トイレにレッツゴー!」

ともだちにシェアしよう!