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第17話
「誠に申し訳ございませんでしたぁあああ!」
夏樹はそう言いながら、床と一体化しそうなほどに頭を下げている。
何であんなことになったのかなんとなく察しはつくし、夏樹の気持ちも身をもって受け取った。あちこち痛むし、叱りつける気もしない。
快感で意識がトぶなんてフィクションだと思っていた。エロ漫画あるあるだと思っていた。……実際にトぶまでは。夏樹は超なんたらスポーツドクターなだけあって、気付けもすぐにできる。泣きだして驚いたが、ぼんやりした頭でゆっくり何が起こったかを理解できた。
そうして、現在に至るわけだが……、彼はまだ床と額を合わせたままだ。
「もう顔を上げてください」
「うん……。ほんとに、ごめん……」
「反省する気があるなら、セックスの回数どうにか減らしてください。身がもちませんよ」
「ごめん! 小焼のこと、好きだから、おれ、我慢できなくなって……! も、もう、しない! 小焼が『やめろ』って言ったら、やめるから!」
「『待て』も聞けないのにですか?」
「うぅぅ……」
大きな瞳が涙で潤んでいる。可愛いと思ってしまうから、私はまだまだ甘い。
それだけ想われてることがわかるし、わかった。ゴミ箱に投げられた使用済みゴムの数いじょに私は想われている。
そういえば――……。
「生で中出ししましたよね?」
「ぁ、ぅ……ごめ、ん……。おれ、駄目って……わかってんのに……抑えらんなくて……っ」
責めてるわけではない。ただ、それだけ切羽詰まっていたのかと思った。
普段絶対にゴム無しですることもないし、やたらと優しく抱くような奴だ。
それが、今日は中出ししている。感染症がどうの、私の体がどうの、騒ぐ医者の彼が、だ。
中出しされた女の気持ちが少しわかる気もした。なんだか、へんに、うれしい。妙な感覚がする。夏樹に腹を撫でられた時も妙な感覚がした。
「もうしない! もうしないから! 約束するから!」
「……生で良いですよ、別に」
「だ、駄目だって! 小焼の負担が大きいし、おれ、がまん、できなく、て……外に、出せない、し……」
ぷるぷる震えながら話す姿が愛らしい。頭を撫でてやりたいが動けない。今は無理だ。
夏樹がしたいようにしてくれたら良いと思う。さすがに回数は減らしてほしいが、生のほうがきっと気持ち良いはずだ。中出ししても私が孕むことは絶対に無いから、気が楽だと思うんだが。
…………腹が、痛い。
「腹が痛い」
「え!? あ、な、中に出したからか!? ごめん! えっと、掻き出す!」
「ばっ、か、ァッ!」
慌ててベッドに戻ってきた夏樹に尻を撫でられて、変な声が出た。
「ひ、ぁっ! アッ! はーーぁっ! ぃ……! にゃ……ん、んんっ、ぃっあ」
ひくついている。夏樹が欲しくなる。こんなの、おかしい。こんなの、私じゃない。
中に出した精液を掻き出しているだけだが、腰が揺れてしまう。孔がひくついてしまう。夏樹の指を締めつけてしまう。
おかしい。あんなにしたのに。気絶するくらいに、したのに。
また気持ち良くて、頭が真っ白になった。
きもちい。夏樹に触られたら、おかしくなる。
「ふぇっ!? イッたのか?」
「ばか! ばかぁ!」
「ごごごごごめん!」
あんなにしたばかりなのに体が熱い。
頭は冷静だと思うのに、体が彼を求めてしまう。これじゃあエロ漫画と同じだ。
「なんかすげぇ出てくる……。おれ、こんなにしてたっけ? 小焼大丈夫か? 腹痛いままか?」
「ぅるさぃっ! ぃっ……! ぁ、ばか!」
もう痛いだとかそういう感覚はどこかにぶっとんでいった。体に力が入らない。布団に埋もれることしかできない。シーツだって汚れているし、このまま寝るのもどうかと思うくらいだ。
「ちゃんと洗ったほうが良いよな……。うーん……」
夏樹は真面目に何か考えている。背筋にゾワリと悪寒が走っていった。なんだか、嫌な予感がする。たまに暴走するから、何をされるかわからない。しかも、治療行為に関しては、彼はプロだ。ホンモノの医者だ。
部屋に備え付けのカタログなんて見てどうするつもりだ。立ち上がって何処かに行ったと思えば、すぐに戻ってきた。手に袋を持っている。これは無菌バックだったか? 中にはチューブが入っているようだ。
「カテーテル売ってた!」
「は、はあ?」
「いやあ、こんなところでカテーテルが売ってるなんてなぁ。やっぱ、こういうプレイする人いんのか? いや、でも、これ本当に医療用だから一般人が使えるとは思えねぇんだけど」
「……それ、何に使うんですか?」
「直腸洗浄!」
元気いっぱいに、いつもの人懐こい笑顔で答えられた。
こわい。なんだか、ひどく怖い。夏樹のことだから悪いようにはならないことはわかっている。これでもホンモノの医者だから。だが、医療オタクでもあるからな……。面倒くさいことに。
よく見れば、カテーテル以外にも色々手に持っていた。
「直腸バルーンカテーテルがあるってすごいよなぁ。ウォーターバッグもついてたし、きちんとコントロールユニットもあんだぞ! ポンプで自由自在に水を出し入れできるな!」
「すごく楽しそうにしているところ申し訳ないんですが、腹痛は治まったので、それは片づけてください」
「駄目だ! きちんとキレイキレイしねぇと!」
「汚したのお前ですよ」
「だからだよ! おれが責任取って、おまえの腹ん中、キレイキレイする!」
……ひどく後悔した。言わなきゃ良かった。もうあきらめるしかない。夏樹はこうなったら、話を聞かない。自分の専門分野だと活き活きしているから、ちょっと可愛い。
「よし! そんじゃ、ベッド汚しちゃ駄目だから、トイレにレッツゴー!」
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