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第19話
今日は高校の文化祭だ。
夏樹は家族用の招待券を持っているし、私はけいから招待券を貰ったので、共に足を運んでいる。道中ずっと「文化祭デートって青春だよな!」と言っていたので、今日はデートらしい。普段となんら変わりない気分でいたので、デートとして意識してやったほうがいいか。
とは言っても、人がそこそこいる場所でいちゃつくのはTPOをわきまえるべきだな。
「いっぱい屋台あるなぁ!」
「スタンプラリーがあるので、全部食べたら何かしら貰えますね」
「対象店舗3つのところを全部回るのおまえくらいじゃねぇか?」
「教室にも展示や飲食店があるようですし、楽しみです」
「そんじゃ、どっから行く?」
文化祭のマップを広げる。ふゆとけいのクラスは喫茶店をしているようだ。演劇部の出番は午後の部のトリだから、今は講堂に用事は無いな。Nano♡Yanoも午後からだし、まだ良いか。場所取りをするべきか?
「夏樹。女装コンテストの出演者募集してますよ」
「おいおい。そんなの、なちゅちゃんが一番になっちまうだろ!」
「大した自信ですね」
「まぁな。そんくらい自信持てって言ったのはおまえだぞ」
そんなこと言ったか? 全く記憶に無いが、夏樹が記憶の捏造をしてるならしてるで、まあ、良いか。
女装コンテストもだが、ミスコンも開催されるようなので少し気になる。
近くにいた焼きとうもろこし屋に声をかけられたので買っておいた。スタンプひとつゲット。
熱々を頬張る。甘くて、ジュワッと汁があふれるくらいには美味い。もう1本買おう。
「小焼ぇ、いきなりとうもろこし2本食うなよ」
「美味いです」
「そりゃあ良かったな。おまえが美味そうに食ってるからか、あの店、急に繁盛してんぞ」
振り向く。列ができていた。売り上げに貢献できたなら良いことだ。
ノープランなので展示物を見に行くことにした。その流れでふゆとけいのクラスを覗けばちょうど良さそうだ。
「ここは漫画研究部だってよ」
「漫画を研究するんですか?」
「うちの大学に現視研あんだろ? それと一緒だ。ふゆも漫研に入ってんだよ」
「ああ……、オタクの溜まり場ですか」
教室に入ってみる。ガタガタッと椅子を鳴らして女子が立った。どうして立ったんだ。かまわず部員らで会話を続けてくれれば良いのに。
「こ、こ、こ、こんにちは!」
「こんにちは」
「え、あ、あ、も、もしかして、な、な、なちゅ、ちゃん、ですか?」
「おう。おれがなちゅだよ。ふゆがいつも世話になってます」
「あー! 無理ー! なちゅちゃん可愛い! 男の姿なのに可愛いー!」
「あはは、ありがと」
すごく平和だな。夏樹は笑顔で応対している。
教室内は飾り付けもない。机の上に本が数冊置かれているだけだ。『文化祭特別号』と書かれた本を手に取る。女子が慌てたように手をバタバタしている。
「あ、それ、BLと言って、その、男同士の恋愛を描いた漫画なんで!」
「はあ? だから何ですか?」
「だ、だから、その……」
「読まないほうが良いかもって言ってくれてんだよ」
夏樹が私の横に来て人懐こい笑みを浮かべる。
読まないほうが良いとは何だかよくわからないが、私は読むことにする。女子が「ああああ」と消え入りそうな声をあげていて、別の女子が肩をポンと叩いていた。
「確かに男同士ですね」
「BLって言ってんだから、男同士だろうなぁ」
「面白かったですよ。夏樹も読みますか?」
「おう。あの子真っ白になってっから話しかけてやってくれな」
「わかりました」
この女子は、おそらく漫画を描いた作者だ。うわ言のように「顔の良い男に私の推しBL読まれたぁ」と繰り返している。大丈夫か?
「あの、面白かったですよ」
「ひゃ、ひゃいっ?! あ、あ、ありがとうございます!」
「何を心配したかわからないんですが、あのちっこいの、私のパートナーですし、BLでも問題無いです」
「ぱぱぱぱパートナー!? く、くわしく! 詳しくお願いします!」
「詳しく? 何をですか?」
「さ、さしつかえなければ、どんな攻め方をするのか、とか!」
「攻め方? それは私より夏樹に聞いたほうが……」
「えええっ!? お兄さんは、受けですか!?」
「そうですが、何か問題でも?」
「いえいえいえいえ!」
すごく興奮させたようだが、大丈夫か?
漫画を読み終えた夏樹が寄ってきた。
「おっ。小焼、女の子赤面させて何話してんだ?」
「攻め方を教えてほしいそうですよ」
「あー……なるほどな。小焼はおっぱいが最高に良いぞ!」
「黙れ。さっさと次行きますよ」
このままだとろくなことを言わないと察したので、夏樹を抱えて次に向かうとする。
隣は鉄道研究部らしい。教室内にプラレールが走っていた。夏樹がすごく興奮して、部長の話を聞いていた。こういう模型作るの好きだものな……。
文化祭だから文化系の部活動が生き生きしているように見える。軽音楽部がチラシを配っていたので受け取る。ライブは午後からか。茶道部で茶菓子を貰った。夏樹は抹茶を飲んで「にがぁい!」と言っていた。
ふゆとけいのクラスの前にそれなりに待機列ができていた。喫茶店だから混むんだな。
「やっぱりメイド喫茶は人気だよな」
「メイド喫茶なんですか?」
「あれ? 知らなかったか?」
「喫茶店と書いてありますが」
「メイド喫茶だよ。ほら、メイドさんいるだろ」
客を呼びに教室からメイドが顔を出した。ミニスカートではなくてロングスカートか。私はフレンチメイドが好きなんだが……仕方ないか。
待つこと30分。席に案内された。教室内にメイドがうろついている。
「あっ! けいちゃんだ!」
「おかえりなさいませやの。えっと、ご主人様、ご注文を……」
「お前を食べたい」
「はうっ!?」
「小焼。おさわり禁止だぞ」
「私は元カレですよ」
「何のアピールだよ。フラれてんだろ! ほら、けいちゃんはメニューに無いから駄目だ。おれ、この激辛ピザトーストで。小焼には一番高いやつ食わせてくれ。おれが金払うから」
「わ、わかりましたやの」
けいはとてとて歩いて行った。
ロングスカートでも良いな。破る楽しみがある。しかしあれだと彼女のむちむちした太ももが見えないから勿体無い。
しばらくして、他のメイドが激辛ピザトーストを持ってきた。その後に、けいがオムライスを持ってきた。
「一番高いのがオムライスだったんだな!」
「はいやの。え、えっと、ご主人様、一緒に美味しくなるおまじないを……」
「私はお前にケチャップをかけて食べたいですが」
「ふえぇっ!?」
「小焼! けいちゃん怯えてるから、その性癖の吐露をやめてやってくれ」
「わかりました。おまじないって何ですか?」
「萌え萌えきゅんやの」
「萌え萌えきゅん」
「真顔で言うもんじゃねぇし、けいちゃんと一緒に言うもんだから、もっかいな」
けいのフリを確認して、一緒に「萌え萌えきゅん」を唱えた。ファンサが凄まじい店だ。来て良かった。オムライスの味は普通だったが、けいが愛らしいので許される。支払いは夏樹だしな。
「そういえば、ふゆは?」
「ふゆちゃんはキッチンスタッフやの」
「そっか」
「ふゆちゃん、勝手にミスコンにウチをエントリーしてたやの……」
「ありゃ。そりゃあうちの妹が悪いな! でも、けいちゃん可愛いから大丈夫だって!」
「そうですよ。周りが霞んで見えます」
「そんなことないやの。ウチは、全然やの……」
そう言いながら彼女は別のテーブルにオーダーを取りに行った。現役のアイドルに文化祭で給仕してもらえるのはラッキーだな。
腹も膨れたので、休憩がてら講堂で何か見ることにした。今から特殊撮影研究部の発表があるようだ。夏樹が目を輝かせて幕が開くのを待っていた。
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