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第22話
屋外ステージ上では、けいちゃんがもじもじしていた。オフモードだから、恥ずかしがり屋の内気でおとなしい女の子だ。アイドルとしてのスイッチがオンになったら、ちょっと気の弱い感じにまで持ち直す。それがけいちゃんの良いところ! ついつい応援したくなるような雰囲気が出てるんだよなぁ。
出来レースだったのかもしんねぇけど、けいちゃんが優勝してた。「アイドルなんだから当然!」「ずるい!」って声もあがってたけど、そういうなら他の子に投票したら良いよな……。おれ、あの子らがけいちゃんに投票したの見たぞ。
で、再び講堂。次は演劇部の出番のようだ。ふゆが家でずっと練習してっから、おれもセリフ覚えたぞ。全員のセリフを空で言えちまう。
最前列は取れなかったけど、舞台がよく見える真ん中の席をゲットした。小焼の周りに人が寄り付かないのは、見た目がヤンキーだからか? ピアスをガンガンあけてっから怖ぇのかな。おれも少しあけすぎじゃねぇかなって思ってっけど、小焼があけたいなら施術してやりてぇし……。
「どんな話か知ってますか?」
「ふゆの練習に付き合ってっから全部わかる! けいちゃんが脚本演出してんだってさ」
「へぇ。すごいですね」
「そんで、ふゆが主役なんだ! 男性役なんだってよ!」
「男の部員いないんですか?」
「いるけど、部内オーディションの結果だと」
この学校の演劇部はけっこうレベルが高いらしく、大会なのかなんかわかんねぇけどそこでよく表彰されてるらしい。ふゆも主演女優賞貰ったことあるくらいだ。けいちゃんは脚本賞。すっごいんだ。
ふゆの演技力がすげぇのは身内の贔屓目が無しでも言える。SNSで声優活動もするくらいだ。秋ノ次冬夜先生は多才だって言われてる。それだけにアンチもいるようだけど、ふゆの性格だと「また悪口言われたぁ」ぐらいで終わる。逞しいよな、ほんと。
開演ブザーが鳴って、幕が開く。
小焼にあらすじ説明しそこなったけど、まあ、大丈夫だろ。
舞台は江戸時代。春の新吉原遊廓。花魁道中の際に粗相をしたヒロインを主人公が助けるところから始まる。
時代物ってまた渋い選択をしてきたなぁって思ったけど、最近また流行ってんのかな。一時期は新撰組ブームになってたけど、また江戸時代ブームか?
高校生だからさすがに濡れ場は細かく表現されねぇけど、布団に入った瞬間に花びらが舞い落ちてくるのは、なんか、エロかった!
なんだかんだと一悶着あった末に、主人公がヒロインを身請けして、ハッピーエンド。
終始手に汗握るドキドキ感があって、すっごい感動した。涙が出たくらいには感動した。小焼も途中からグズグズ言ってたし、泣いてる。「鬼の目にも涙だな」って言ったら怒りそうだから、ググッと堪えた。
演劇部の感動的な話の後は、おまちかねのNano♡Yanoのライブだ。
講堂にさっきよりも人が増えた。学校中の人が集まってんじゃねぇのかってぐらいに増えた。
こんなに人がいて大丈夫か? 小焼を見る。特に表情に変わりはない。いつもの仏頂面だ。
開演ブザーが鳴る。舞台の端から2つの影が駆けてくる。
「みんなー! こんにちはなのー!」
「こんにちはー!」
「声が小さいやの! もういっかい!」
「こんにちはー!」
「上出来なの!」
お菓子の天使のようなポップな服装のアイドルが左右に手を振っている。
やっぱりNano♡Yanoは可愛いなぁ。ロリポップキャンディを持ってると思ったら、マイクだアレ!
自己紹介が始まりそう。
メイちゃんが、けいーーレイちゃんより一歩前に出る。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、間違えたら許さないなの! いくなのっ! ちっちゃなハートに」
「おっきな野望!」
「みんなに、みんなに『セクシー』をお届け! はい! ……あげないなの!」
「いじわる〜!」
「セクシー担当、いじわるエンジェル巴乃メイなの!」
「せーの!」
「メイちゃーん!」
すげぇ。息ぴったりだ。アイドルのコールってこんな感じなんだな。
小焼は呆然とした様子でフリーズしてた。こりゃ覚えてなかったか。まだライブ行ったことねぇもんな。仕方ないか。
次はレイちゃんの番だ。俯いていた顔が上がった瞬間にキリッとなった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、一緒にお願いしますやの! ちっちゃくても」
「しっかりものー!」
「みんなに、みんなに『カワイイ!』をお届け!はい、どうぞやの!」
「メロメロー」
「キュート担当、泣き虫エンジェル巴乃レイやの!」
「せーの!」
「レイちゃーん!」
「お兄ちゃんお姉ちゃんに、命令なの!」
「いっぱいいっぱいハッピーになぁれやの!」
「なりまーす!」
「メイレイはー?」
「ぜったーい!」
激しいパンクロックサウンドが流れ始める。
こんなに可愛い見た目のアイドルなのに、曲はかなり激しい。ヘドバンしたくなるし、モッシュもしたくなる。パイプ椅子があっからできねぇし、禁止行為だけど。
小焼も隣で目をキラキラさせてNano♡Yanoを応援していた。
おれはいつでも小焼推しだからな! とは言えねぇな。こんなに楽しそうな小焼を見るのは久しぶりだ。なんか、好きなものができて良かったなぁって、しみじみ思った。
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