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第23話

 とても良いものを見たので気分が良い。  人が多いのは苦手だが、きちんと空気を読める夏樹はライブが終わったらすぐに出ようとしてくれた。  講堂を出たところでスマホが震える。けいからメッセージだ。 「夏樹。けいが渡したいものがあるから演劇部の部室に来て欲しいそうです」 「おう。おれもふゆからメッセージ来た。何だろな?」  メッセージによると、演劇部の部室は視聴覚室の隣らしい。早速校舎を埋める人の間を縫いながら向かう。  今すぐ殴り飛ばして道を開けたいところだが、迷惑行為でしかないし、退場させられるはずだから、グッと堪える。  視聴覚室では何も展示が無いらしく、この辺りは静かだ。カップルが休めるスポットになっているのか、イチャつく男女しかいない。  同性カップルは目立ち場所でイチャイチャしないのか。……まあ、差別の目はまだあるからな。  部室のドアをノックして、返事を聞いてから開く。  中には、けい、ふゆ、そして巴乃メイがいた。楽屋として使っていたようだ。 「お兄ちゃん来るの遅いよぉ」 「人がいっぱいいたから大変だったんだよ! で、渡したいものって何だ?」 「それは、メイレイちゃんから聞いてください!」  ふゆは笑いながら、けいとメイの後ろに回った。  二人は袋を持っている。メイは夏樹に、けいは私に袋を渡した。  開けて良いのか? 目で訴えると、けいはビクゥッ! と跳ね上がった後、頷く。  中から出てきたのは、Nano♡YanoのロゴがプリントされたTシャツだ。ライブグッズだと思う。夏樹はパーカーを持っていた。こちらは袖部分がレースアップされており、フード部分がセーラーカラーのような形になっているものだった。可愛いデザインだから女子の人気も高いと思う。夏樹に渡すくらいだから、なちゅちゃんが着ればバエスタで宣伝にもなる。 「可愛いー! すっげぇ可愛いな!」 「えへへっ。喜んでくれて嬉しいなの。これ、うちがデザインしたなの。小焼くんのお母様に協力してもらったコラボデザインなの」 「こっちはウチがデザインしたやの。シンプルにしたから、男性でも着やすいと思うやの」  推しに名前を呼ばれて心臓が跳ねたが、母は上手く二人とビジネスできたようだ。  ブランドのネームバリューもあるし、二人のことを知らないユーザーに、二人を知ってもらうチャンスにもなる。ついでに夏樹がバエスタで宣伝すれば、学生の目にもつく。……考えられたビジネスマネジメントだな。  その後は、二人にライブの感想を伝え、ふゆには劇の感想を伝えておいた。  ふゆが男役をやると聞いた時は、どうなることかと思ったが、高い演技力で何も気になることはなかった。  演技もできて、絵も描けて、小説も書ける。マルチクリエイターだな……。夏樹にその器用さを分けてやってほしいくらいだ。  夏樹は夏樹で努力家な面があるから、私からどうこういうものではないが。  今日は爆音で世話にもなったし、何かご褒美を与えるか。  学校を出る前にチョコバナナを買って、食べながら帰路に着く。  こんなに楽しかった学園祭は初めてだ。ずっと騒がしいイベントは避けていたから、こんなに楽しいものだと知らなかった。夏樹がいたから楽しめたんだと思う。ご褒美は何にしようか……。 「夏樹。家、来ませんか?」 「行く!」 「今日は楽しかったので、ご褒美に何でもとは言いませんが、お前がやりたいことを聞いてやりましょう」 「マジで!? えー、迷うなぁ! 何してもらおっかなぁ」  人懐こい笑みを浮かべてひっついてきたので頭を撫でてやる。本当に犬っぽい。忠犬なちゅ号はご主人様が大好きなようだ。尻尾をぶんぶん振っているように見える。尻尾なんて夏樹にはえていないはずなのに。  私の家に着く。玄関でドアを閉めた瞬間に背伸びした夏樹にキスされた。 「セックスしたい!」 「言うと思いましたよ」 「おれ、小焼の準備からやりたい」 「……あまり綺麗なものではありませんよ。汚いと思います。糞ですし」 「おれは、そういう汚いところを含めて、小焼のことが好きだ!」 「まさか、糞を食べたいとか言いませんよね?」 「あー……、おれ、スカトロは苦手なんだ。わりぃな!」 「私もスカトロはあんまり……」 「微生物の死骸と栄養を吸い切った残骸だからなぁ。食べようとも思わねぇよ。腹壊しちまう」  こういう時に、こいつ医者だったな、と思う。  すぐに知識を引き出せるだけ賢いはずなんだが、どうしてか普段はばかっぽい。奇妙なはなしだ。  夏樹は医者だから丁寧に浣腸もシリンジも使えるはずだ。ラブホで本格的な腸内洗浄をしてくれたくらいだ。あれで腹はスッキリしたし、体重がやや減った。  さて、セックスの準備に必要なものを用意した。  後は、夏樹に任せてみるか。

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