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第27話

「誠に申し訳ございませーん!」 「お前はそれを何回やれば気が済むんですか」 「だってぇぇ……」  けっきょく、何回したんだったか。  ベッドのあちこちに開封した小袋が散っている。使用済みのゴムをきちんとゴミ箱に捨てることは覚えてくれたようだが、ティッシュや小袋はその辺に捨てられたままだ。怒るのも面倒になってきたな。  床にべたりと伏している彼の頭を踏みつけつつ、近くに落ちているゴミを拾う。ヘッドスペースのゴムが空になっている。……何個入ってた? 開封してなかったような気がする。業務用でも買えってことか? いや、そんなことをしたら、まるで私がヤりたがっているようで嫌だ。それはかなり気恥ずかしくなる。  とりあえず、あまり踏みすぎてもご褒美になってしまうので、足を退けてやる。夏樹は顔を上げた。 「お前は何回同じことを言えばわかってくれるんですか。3回までって言ったでしょうが」 「う、うん。それは、わかってんだけど、その……、小焼ん中気持ち良くって、止められなくなっちまうんだ!」 「逆に夏樹って賢者タイムになるのか気になりますね」 「なるよ! おれだって、シコった後とかすっげぇ冷静になっから!」 「私に見られてる状態でもですか?」 「あー……、それは無理かも。ゾクゾクしちまうもん!」  どこからつっこめば良いのかわからないな。  まあ夏樹のこういうところが「かわいい」要素でもある訳なんだが……。だからって、何度もやるのは疲れる。私より体力があるのかと思うくらいだが、この場合は持久力なのかもしれない。 「そういやさ、Nano♡Yanoのライブがあるって、ふゆからメッセージ来てたぞ」 「いつですか?」 「ライブがか? ふゆからメッセージが来た時間か?」 「ライブですよ。ふゆに興味はない」 「そんなこと言うなよ! 可愛い妹なんだぞ!」 「知るか」  夏樹は少し頬を膨らませながら私の隣に腰掛ける。ベッドサイドのテーブルから自分のスマホを取って画面を見せてくれた。  Nano♡Yanoのライブが再来週あるらしい。また急だな? こういうのは何カ月も前に発表するものじゃないのか? とは思うが、私は業界関係者ではないからよくわからない。  単独ライブではなく、ロックバンドの対戦相手に選ばれただとかなんとか。対バン相手ってやつか。アイドルを相手にしてどうするんだ。ジャンルが違うのではないか?  まあ、何でも良いか。 「で、チケットはどうやって取るんですか?」 「けいちゃんが手売りしてるらしいぞ」 「手売り? 手首をぶった切ってしまう流れですか?」 「怖ぇよ! 何だよその恐怖の商売!」 「お前が今手売りだって」 「手渡しで販売してくれるって意味だ! けいちゃんにメールしたら買えるってこと! ほら、けいちゃんのアカウント見てみろって」  夏樹があきれた様子なので私はツブヤイッターのけいのアカウントーーというよりは、レイのアカウントを開く。ライブの告知がされていた。チケットを購入するには、DMを送れば良いらしい。 「普通にメッセージ送って良いですか」 「おまえならそう言うと思った。でも、この会場は小さいハコだからなぁ」 「ハコ? ダンボールなんですか?」 「どこから説明すりゃ良いんだ!? 小さなライブハウスってことだよ。キャパは150人ぐらい」 「はあ?」 「えーっと、つまり、小さいライブハウスだし、タバコも余裕で吸ってっし、この対バン相手は、モッシュって言って、体当たりするような行為やリフトって言って、一人を担ぎ上げて転がすような行為があるようなバンドだから、おまえ、しんどくなんねぇかな」 「夏樹がいれば大丈夫です」 「えへへー、そこまで頼ってくれて嬉しいー」  真面目な顔をして話していたと思えば、急に人懐こい笑みを浮かべながら擦りついてくるので、見てて面白いな。  早速、けいにライブのチケットについてメッセージを送る。返事がすぐにきた。整理番号の一番と二番をこっそりキープしていてくれたらしい。けいが自腹で買っていてくれたらしい。もう意味がわからないが、とりあえず、それを五倍の値段で買いたいとメッセージを送れば、「定額でお願いします」とウサギの泣いたスタンプが送られてきた。 「チケット取れました。整理番号は一番と二番です」 「何したんだ!? 不正行為は駄目だぞ!」 「けいが先に買っていてくれたんですよ」 「さすがけいちゃんだな!」 「とりあえず、これでライブは行けますね。ライブグッズの画像も今送られてきました」  可愛いデザインのセーラーパーカーだ。母がデザインしたように見えるな。あとで聞いてみるか。  とにもかくにも、再来週が楽しみだ。

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