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第28話
あっという間に、Nano♡Yanoのライブ当日。小さなライブハウスの後ろの方で物販をやってた。
おれはセーラーカラーパーカー、小焼はTシャツにすぐに着替えてコインロッカーに荷物を放り込んだ。
小焼が「母に送るから写真撮らせてください」と言ってきたくらいだし。
ライブが始まるまでまだ時間がある。整理番号がまさしく神番だったから最前列で柵前に来れたけど、先にNano♡Yanoが歌うよな? 対バン相手のCDリリースツアーに呼ばれてるんだし。
小焼はこんな場所に来るのが落ち着かない様子で周りを見ていた。彼が落ち着いてないのは珍しいな。
「小焼。どうかしたか?」
「なかなか煙たいですね」
「あー、スモークたいてっからな。しんどくなったら言ってくれよ」
「大丈夫です」
とは言うが、心配だ。レーザー使うだろうからスモークはもくもくしてっし、タバコの煙も食らっちまうか。喘息が出なけりゃ良いが、いざとなったら手当てはどうにでもできる。周りの人も手伝ってくれるだろ、たぶん。
ドリンクチケットで引き換えた水は腰のドリンクホルダーにつけといた。小焼はサコッシュに入れていた。モッシュで潰されねぇか心配になるや。まあ、ガタイは良いから大丈夫か。
「夏樹、『サイド』」
「おう! 横にいるぞ!」
「離れないでください」
「ん。わかった!」
と言っても、ライブが始まったら割り込んでくるやつもいっからなぁ。
小焼に擦り付けるくらいに近付いておこう。後ろのやつが「ホモかよ」とか言ってたけど、気にしない。おれは女の子も好きだから、バイだしな! 今は小焼以外に考えられねぇけど。
会場の音楽が切れて、照明が落ちる。次にアップテンポのかわいい音楽が鳴り始めた。拍手をして、迎える。
「みんなー! こんばんはなのー!」
「こんばんはー!」
Nano♡Yanoの二人がステージに現れる。
二人は手にペロペロキャンディを持っていた。おれの前に巴乃メイちゃんが来る。小焼の前には巴乃レイちゃんが来た。
「お兄ちゃん、どうぞなの」
「あ、ありがと!」
「お兄ちゃん、どうぞやの」
「ありがとうございます」
ペロペロキャンディ貰っちゃった。隣の人は投げキッス貰ってた。
小焼は嬉しそうだ。推しにペロペロキャンディ貰えて良かったな。
音楽が止まる。
「みんなにハッピーを運ぶちっちゃな天使Nano♡Yanoです! よろしくお願いしますやの!」
いつもの自己紹介が入る。Nano♡Yanoのファンもけっこう来ているようで、合いの手もきちんと入った。
ファンサービスがすんごい。投げキッスやウインクは当たり前だし、手を伸ばしたら握手もしてくれるくらいだ。
激しいロック調の曲で桁外れの歌唱力、おまけにダンスもキレッキレだから、バンドを目当てに来たやつらも大盛り上がりだ。「これから推そう!」って言ってる声も聞こえた。なんだか嬉しいなぁ。
六曲ぐらい歌って二人はステージから去る。名前を呼んだら振り向いて手を振ってくれた。可愛い! すっげー可愛い!
次のバンドのステージ準備が始まったから、おれは小焼の腕を引いて、後ろに向かう。こういうのはお目当てのものが終わったら譲るもんだ。
小焼だって、疲弊してそうだから休ませなきゃいけない。最前列で大音量を浴びせられてんだから、疲れてるはずだ。
「『ヒール』」
「ん。わかってる。側にいっから安心しろって」
手を繋ぐ。ライブハウスは暗いしおれらの手元まで見えないはずだ。たまーに後ろでキスしてるカップルもいるくらいだ。いちゃつかずにライブを楽しめよって思ってたんだけど、今ならなんとなく気持ちがわかるや。
好きな人と一緒だと、こう、いちゃつきたくなるよな!
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