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第32話

 もうすぐ季節は冬になる。小焼と付き合い始めてから、毎日が楽しいし、時の流れを早く感じちまう。  スマホの写真を眺めてニヤニヤしてたら、いつの間にかふゆが覗いていた。 「お兄ちゃんと小焼ちゃんラブラブだねぇ」 「おう! ラブラブだぞ!」 「ラブラブなら、ハメ撮りしてないの?」 「してねぇし、してても見せねぇぞ」 「えー! じゃあ、何か資料ちょーだい! ブレアンの原稿してるんだけど、ベースの筋肉資料足りないの!」 「筋肉資料なぁ……」  ブレアンってのは、『ブレインアンダーグラウンド』という異世界ファンタジー作品で、ベースはその作品の警察隊長。褐色肌のマッチョだから、描くのは大変だとふゆは言っていた。  おれはテキトーに小焼の写真をピックアップする。水泳部の記録会の時に撮影したもの。決して盗撮ではなく、記録用だ! 「お兄ちゃん、ほんっと、小焼ちゃんのこと大好きだよねぇ!」 「おう! 大好きだぞ! 好き過ぎて、好きしか言えねぇもん!」 「でも、ペアリングしないの?」 「おれはしたいんだけどさぁ、小焼がリングしないんだよな」 「ネックレスならしてくれるんじゃないの? 小焼ちゃんいつも肩こり治りそうなやつしてるでしょ」 「マグネットのやつな。リングさがしてみっかなぁ……」 「一緒に選んだら? ペアリングなんだし!」 「小焼に連絡してみる」  今日はバイトあっかな? メッセージを送ったらすぐに既読がついた。そんでから返信も来た。  暇だからおれに連絡しようとしたところらしい! やった! 嬉しい! 通じあってる!  おれは急いで部屋着からパーカーに着替えて、ふゆを自分の部屋から追い出して、家を出た。  車に乗り込んで、窓を全開にしてタバコをふかす。小焼が乗ってむせないようにしねぇと。すぐ殴ってくるからなぁ……。  ふゆはおれがいない間にまた部屋に入りそう。入るのは許すけど、おれの秘宝館を荒らすのだけはやめてほしい! おっぱい写真集が返却されてないくらいだもん!  小焼を拾って、ちょっと大きめのショッピングモールに向かって車を走らせる。 「暇だったので嬉しいです」 「おれも小焼に会えて嬉しい! 今からな、リングを選びに行くんだ!」 「そういうのはサプライズで渡すものでは?」 「おれ、小焼の指のサイズわかんねぇし、一緒に選んだほうが楽しいだろ!」 「……同性で、そういうリングを選ぶのは…………」  小焼は珍しくボソボソ話した。なんでもかんでもはっきりズバッと言うようなやつなのに、ほんと、珍しい。  おれが周りの目を気にしてんのを気遣ってくれてんのかも。おれはもう、堂々としてたら良いって、小焼と一緒にいてわかったんだ。おれが誰を好きでいようが、他人には関係無いことだ。おれのことは、おれが決めるんだ。周りの目は、ちょっと気になるけど、小焼への気持ちは恥じることでも悪いことでもない!  ショッピングモールに着いた。車を降りて、すぐに小焼の右手を握る。握り返してくれたから、手を繋いで歩く。  けっこう賑わっているけど、おれらのことをヒソヒソ話す人らはいない。小焼の言うとおりに、堂々としてて良かったんだ。恥ずかしいことでも悪いことでもないんだ。  ちっちゃい子供がお母さんに「あのおにいちゃんたち、おててつないでる」って言ってた。お母さんの返答は「仲良しだからよぉ」だった。良かった……、変に思われなくて、良かった……。 「子供に不思議がられてましたね」 「うん。でも、お母さんが理解ある人で良かった!」 「……そうですね」  小焼はほんの少し笑ってくれた。普段は笑わないから、それだけでおれは嬉しくなるし、幸せだ。小焼が笑ってくれて、嬉しい!  カップルに人気のジュエリーショップに入る。やっぱり店内には男女カップルが多くいた。同性カップルはいない。女同士もいない。男女カップルがこっちを見てヒソヒソ話してる。  ……なんで、そんな目で見られるんだろ。誰かを好きって気持ちは、同じなのに。 「いらっしゃいませ」  女性のスタッフさんが声をかけてくれた。  この人は同性カップルについてどう思ってんだろ? 割り切って考えてくれてんのかな……。お客様だから、嫌でも付き合わなきゃなんないだろうし……、そうだったら……。おれ、小焼に未来のことをきちんと考えるように言われてたんだ。決めた。今、決めた。  おれは小焼のことが大好きだから、誰にも渡したくないし、ずっと一緒にいたい! 「ブライダルリングが、欲しいんですけど」 「お二人のサイズはおいくつですか?」  嫌な顔一つせずに対応してくれる! しかも、どっちかが付き添いで買いに来たとも思われてなさそうだ。  良かった。ビミョーな空気にならなくて、良かった……。小焼の表情が明らかに驚いた様子になってたけど。  薬指の採寸をしてもらって、リング選び。色んなデザインがあるけど、小焼に可愛いリングは似合わないだろうし……下手したら折り曲げちまいそうだ。  まず、指にしてくれんのかな。前にペアリングの話した時は嫌そうだったし……。 「ブライダルリングを買うなんて聞いてないですよ!」 「言ってないからな! 受け取ってくんねぇの?」 「…………受け取りますけど、ネックレスにしますよ」 「うん。それで良いよ」  二人でお互いに似合いそうなシンプルなデザインを選んだ。セミオーダーのデザインだから、受け取りは後日になる。  一緒に受け取りに行くの、楽しみだ!

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