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第33話
一週間後。
夏樹の電話に指輪が完成したと連絡が入ったので、再びジュエリーショップを訪れる。
当然のように周りは男女のカップルだらけだ。不思議なものを見るかのような視線が肌に刺さる。睨めば目を逸らされた。
「小焼。睨むなって」
「腹立ちませんか」
「うーん、そりゃあまあ、悔しいけどさ。おれらが幸せだってことを周りにわからせたら良いだろ!」
「……夏樹って、たまに良いこと言いますよね」
「だろ? たまに、は余計だけどな!」
笑っている夏樹の頭を撫でてやる。「撫でられて嬉しい!」と言って擦り付いてくる。可愛い。ちっちゃくて可愛い、私のパートナーだ。
指輪を受け取って、夏樹は私に箱を渡してきた。
「はめてくれ!」
「私はネコですが?」
「そっちの意味じゃねぇよ! そんなえっちなことここで言うか! 指輪だ! 指輪!」
ああ、なるほどな。
箱を開き、指輪を手にする。夏樹になら首輪のほうが似合うと思うんだが、それはそれ、これはこれ。左手を取り、薬指に指輪を通す。当然だがピッタリはまった。
「次、おれの番な!」
「はい」
私は左手を差し出す。利き手だから凶器になりそうな指輪をあまりつけたくないんだが……、夏樹の気がすむまで付き合うか。後でネックレスにでもすれば良い。
何故だか夏樹の手がぷるぷる震えている。
「アル中ですか?」
「違ぇよ! なんかさ、すっごい嬉しいんだ。おれ、小焼と恋人になれただけでも幸せだったのに、ブライダルリングをできるなんて思ってもなくて!」
「……私も、思いませんでしたよ」
夏樹がずっと私のことを好きということも、なにもかも、思わなかった。
隣にいることが当然だと思っていた。いつか離れるかもしれないと思えば、悲しくなった。
それくらい……、大切な存在になった。
「よし! これでバッチリだな! せっかくだからプリクラ撮ろうぜ!」
「男性は入店できませんよ」
「カップルだから良いだろ?」
「この場合は……どうなんでしょうか……」
行ってみないとわからないか。
ゲームセンターに行き、プリクラコーナーに向かう。看板にデカデカと『男性お断り!』と書かれていた。スタッフはいないのでそのまま入れるが……。
「夏樹。やめましょう」
「そうだなぁ。視線が痛いや……」
夏樹だけならもしかしたら入れたかもしれない。私も夏樹のようにちっちゃくて可愛かったなら、違和感が無かったかもしれないな。無理な話だが。
「じゃあ自撮りすっか!」
「はい」
フォトスポットは男性でも入れるので、そこでおとなしく自撮りすることにした。
指輪を見せるようなポーズで何枚か撮影した。撮影したところで、どうするんだろうか。
「この自撮りどうするんですか?」
「写真用紙にプリントしてゼミ室に飾る! おれがレポート書く時に励みにするんだ」
「また何か言われないか心配です……」
「心配してくれるなんて、小焼もだいぶ変わってきたんだな。前までは何にも言わなかったのに」
「何も思わなかったので」
「それもそっか。ちょっと屈んでくれ」
「はい?」
少し屈んだところで、キスされた。こんなところで絶対にキスやいちゃつくことすらしなかった夏樹がだ。吹っ切れたんだとは思うが極端すぎだと思う。
ぎゅっと抱きついてきて、擦り付けられた腰がひどく熱かった。
「変なところで盛らないでもらえますか」
「わりぃ。おれ、我慢できない。ホテル行こ?」
「夏樹が支払ってくれるんですよね?」
「もちろん! おれが払う! ルームサービスでデザート食っても良いから! ……したい。小焼が欲しい。駄目か?」
「はぁ。わかりましたよ……」
そんなに求められているなら、応えたい。
夏樹の手を握り返して、ゲームセンターを後にした。
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