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第3話
あの時、リオンの姿は僕にしか見えていなくて、皆には僕が宙に浮いているように見えたらしく大騒ぎになったことを覚えている。
それ以来教会へ行く度、僕にだけはリオンが見えていた。
後から知った話だが、リオンに触れられた者はその姿が見え、声が聞こえるようになるらしい。
神は普通、人間に姿をみせない決まりだが、僕が落ちるのをただ傍観していることが出来なくて、リオンは僕にやむ無く触れたのだ。
いつの間にか、教会での僕の楽しみは神父様のお話を聞くことからリオンに会うことに変わっていた。
リオンに話しかけたりしたら、僕は何も無いところに話しかける変な子だと思われてしまうからただ見ていることしか出来なかったけれど、彼の透き通った白髪、長い睫毛、黒い瞳を携えた切れ長な眼、薄い血色の良い唇、優美な佇まいを眺めているだけで満足だった。
小学校に進学すると学校帰りに教会へ寄るようになった。
毎日寄っているとリオンの方から「お前は暇なのか」と声をかけてきた。
見た目に反してぶっきらぼうな物言いをする彼に益々興味が湧き、人目を気にせず彼に話しかけるようになった。
名前を聞くと渋々「リーオンベルグだ」と教えてくれて、僕はそれから勝手に「リオン」と呼ぶようになったのだ。
その頃にはリオンの影響か美しい男性ばかりに目がいくようになっていた。
特に教会で式を挙げる人々は着飾っているものだから、より一層素敵に思え、彼らをネタに妄想することが趣味になってしまっていた。
「ねぇ、リオン。今日の新夫さん凄く綺麗だったね」
「ああ、そうだな」
「新郎さんは凄くキスが上手かったよね。新夫さん気持ち良さそうだった。えっちも上手いのかな?」
「.....何処を見ているんだ。それに妄想もするな」
結婚式が行われる度に僕は明け透けもなくその妄想をリオンに伝えた。
リオンはそれに呆れながらも何時も律儀に僕に返答してくれていた。
--でも僕は自分の妄想の総てを口にはしていない。
毎回最後に思うこと、それはあの新郎がリオンで、新夫が僕だったら.....。
リオンは知らないだろう。
僕が小学生の時から新郎新夫をリオンと僕に置き換えて見ていたことを。
中学生の頃にはリオンにされる誓いのキスはどんな味なんだろうと何時も考えていたことを。
高校生になってからは、リオンとの新婚性活を想像して.....自慰までしていたことを。
--ずっとリオンと一緒にいたい。
そんな僕の願いを叶える方法はこの教会の神父になることだった。
リオンはずっとこの教会にいて、祈りを捧げにくる人、結婚式を開く人々に祝福を与えている。
それはこれから先も変わることがないだろうから。
神父様はリオンが見えないけれど、その存在を唯一認識している人で、僕にリオンが見えるのなら僕の方が適任だと、この教会の神父の座を譲ってくれた。
高校卒業までは神父様のもと見習いとして努め、そして卒業と同時に晴れて神父となったのだった。
「どうせいお前は新郎新夫を妄想で汚すのが楽しいから神父になりたくなったんだろ?動機が不純すぎる」
リオンからは「神に使える意志が無い者は神父になる資格がない」と、何度も辞めるよう促された。
その時、「不純な動機なんかじゃない」とリオンに言い返したかった。
「リオンと一緒にいたいからだよ」と言いたかった。
でも良く考えればそれも神父になる理由としては不純過ぎて、結局少しでもリオンに認めて貰えるよう神職に励むしかなかった。
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