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どっかの処女みたいな

 それに。  大学時代から恋人もずっといなかったし、ましてや人とそういった行為も全くしていなかったせいか、実はちょっと抵抗というか、怖い気持ちもあった。  随分久しぶりだし、本当にうまくできるだろうか。  須藤がタチだということは付き合い当初に確認が取れたので、そういう意味では問題ないのだが、果たして自分に須藤が満足いくような反応ができるのか。自分の体が須藤の求めに十分に対応できるのか。できずに呆れられたり、失望されたりしたらどうしようか。などと、どっかの処女みたいな可愛らしい悩みが須藤との付き合いが長くなるにつれ膨らんでいき、自分から積極的にはできなかったという事情もあった。  だけど。とうとうその機会が訪れる日が来てしまった。シーズンが終わり、シーズン中のレビューなど細々した仕事を済ませて、須藤がやっと自由になれたのがゴールデンウィークだった。  最初、すぐにでも慎弥と会おうとしたようだったが、あいにく慎弥の方がゴールデンウィークの最初の数日は市役所主催のイベントの手伝いが入っており、結局今日が2人のスケジュールが合う最初の日となった。 『泊まってもいい?』  そう電話で聞かれて、嫌などと誰が言えようか(言うつもりもなかったけど)。  本日7回くらい開けているベッド脇の引き出しを再び開いた。そこには行為をするにあたり必要なグッズが揃えられていた。開けたところで変化などあるわけもない引き出しの中を、忘れているものはないかどうか何度も確認する。  昼には掃除が終わり、今までにないほど整頓された塵1つない部屋に満足する。簡単に昼食を済ませてから近所のスーパーへと買い物に出かけた。  夕飯は何にしようかと思って事前に須藤に希望を聞いてみたが、肉、と言われただけだったので、すき焼きにでもしようと材料を揃えていく。飲み物も選び、ふとつまみや菓子も要るだろうかと考える。普段、あまり甘いものを積極的に取らないので、どれが美味しいかもよく分からない。  菓子売り場でうーんと悩んだ末に、チョコレートやキャンディ系のものをいくつかと、ポテトチップスを数袋カゴに入れた。  買い物をしながら思う。もう半年も付き合っているのに。自分は須藤について知らないことが沢山ある。  菓子の好みにしてもそう。会っていても会話の中心はバスケだったり慎弥の仕事の話だったりすることが多くて、お互いの趣味趣向の話まで及ばないのだ。  別に焦ってはいないけれど。付き合っていく内にゆっくり知っていけばいいし。けれど、どこかちょっと寂しい気もした。  このシーズンオフ中にもっと須藤のことを理解できたらいいな、と思いながら帰路につく。

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