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第4話

変わらない日常 4 「華さんや遊馬さんのことはまだオレよく知らないですけど、飛鳥さんだけ見ても自由気ままな感じは凄まじいですよね」 オレが始めて飛鳥さんと会った時、オレは初対面だというのに飛鳥さんに男の子の大事な場所に触れられている。着衣のままだったし、それはほんの一瞬の出来事だったけれど。 普通の人というか、ある程度の常識がある人ならそんなことは絶対にしないと思うんだ。だけど、だからと言って飛鳥さんに常識がないわけじゃないし、飛鳥さんはオレにとても優しい言葉を掛けてくれて。 イレギュラーな出会いと色んなことがあって、飛鳥さんは雪夜さんとオレの付き合いを認めてくれたから。 飛鳥さんはやっぱり雪夜さんのお兄さんなんだなって感じることが沢山あって、飛鳥さんとの出会いはオレにとって悪いものではなかったように思うんだ。 一緒に暮らしていても、雪夜さんの家族じゃないオレには分からないことが山ほどある。それは当たり前のことで、全部を知ることはできないけれど。 家族の話をしても嫌な顔をせずに会話を楽しんでくれる雪夜さんは、ソファーに腰掛けているオレの横に座って愛用品の煙草を咥える。 「まぁ、俺には関係ねぇーからなんでもいいんだけどよ。家系とか遺伝とか、俺は考えるだけ無駄だと思って生きてるから」 言葉と共にゆっくりと吐き出された紫煙、それはほんのり甘いブルーベリーの香りで。真面目な性格のわりには未成年のうちからお酒と煙草を嗜んでいる雪夜さんは、ルールを違反したとしてもバレなきゃオッケーって考えの人。 時には真面目な人間の方が損をすることだってあるのだから、オレは雪夜さんの考えを否定しないけれど。 「雪夜さんも、実はかなりの自由人だったりするんじゃないですか?」 「そうか?」 思ったことをそのまま口に出したオレは、少し考えてから声を出す。 「んー、自由人っていうとちょっと語弊があるかもしれませんけど……でもほら、今はオレと一緒に暮らしてるし、家族から見れば雪夜さんだって充分自由人なんじゃないかなぁって思ったんですよ」 煙草を吸っている雪夜さんの肩に頭を預けて、オレは呟き目を閉じる。家族よりも、何よりも、オレを優先してくれる雪夜さんの愛情をこうしていると肌で感じることができるから。 柔らかく香る甘い匂いに頬が緩んで、触れている肩から小さな呼吸の温かみを感じて。 好きな人と、好きなことをして、好きなように生きる。そこに何度挫折があろうと、苦悩があろうと。雪夜さんは自分自身が思うように、オレのことを考えながらその時々の最善策を選び出しているように思えてならなかった。 オレはそれが悪いことだとは思わないし、むしろ雪夜さんのそんなことろも好きだなって思うから。雪夜さんが雪夜さんでいてくれるなら、オレはそれだけで幸せだって思っちゃったりするんだ。 でも、幸せな日々がずっと続くわけじゃなくて。 オレと雪夜さんがどれだけこの日常を保とうと努力しても、それが時として周りの人間に壊されてしまうことをこの時のオレはまだ知らずにいた。

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