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第6話
変わらない日常2
「じゃあ、後のことはお任せしますね。行ってきます、雪夜さん」
「ん、気をつけてな」
就いている職種が俺とは異なる星くんは、俺より先に家を出る。朝食の用意が星の担当で、洗濯が俺の担当って俺たちの中では朝の家事分担が決まっているのだ。玄関で星を送り出した俺は、伸びをしながら壁掛け時計に目を向けた。
現在の時刻は8時、星くんの仕事が始まるのは8時30分からで、ランの店まで徒歩で向かっても10分程度だから自転車通勤している星は余裕で職場に間に合うことになるけれど。
「……星くんいねぇーと暇だ、俺」
とりあえず任された洗濯物をする為に動き出したはいいものの、俺の出勤時間までにはかなりの時間がある。サッカースクールのコーチとして働いている俺の勤務時間は13時から22時、基本的に午後からの勤務が多い俺にとってこの時間帯は暇で仕方がない。
一緒に暮らしているといっても24時間常に2人で行動を共にしているわけではないし、勤務時間が異なる俺と星はこうして毎日独りの時間を過ごしているから。
俺の帰宅時間に合わせて眠い目を擦りながらも夕飯を作って待っていてくれる星のことを思いつつ、俺は暇だと思う自分の気持ちを訂正しようと試みる。
星が帰宅した時、なるべく安らげるように。
今のうちに俺がしてやれることはやっておいてやりたいと、俺はそう思うことにして余暇時間を必要なものに変えていく。
まずは換気をして、その次は部屋の片付け。
ほぼ毎日同じことの繰り返しで、洗濯や片付けは日常的にやっていること。大学生活の4年間でも身の回りのことは自分で行ってきたけれど、2人で暮らしていると家事として捉えられるのだから不思議なものだ。
「ちっせぇー服だなぁ……」
ベランダへ出て洗濯物を手に取り、シワを伸ばすために何度かパンパンと振った後。広げたシャツのサイズがあまりにも小さくて、俺はそう呟いた。
俺と同じ男なのに、星くんの体格は小柄だ。
星はよく、俺が他人よりも大きいだけだって言っているが……俺からしたら基準は俺になるのだから、星はやっぱり俺より小さくて。
風に揺れる仕事用の白シャツを眺めながら、星は今頃ランと仲良くランチの準備に精を出しているんだろうと思った。
俺より小さな身体でも、俺の恋人はよく働く頑張り屋さんだ。仕事に家事に、それから俺とのことだって……星は本当に、毎日ひたむきに精一杯努力していて。俺はそんな星の姿に励まされ、ただ洗濯をしている今も幸せだと感じてしまう。
ベランダに出ているだけで、強過ぎる日差しに焼けそうになるけれど。2人分の洗濯物は、暖かい日の光を浴びて嬉しそうにしているから。
人が死にそうになるくらいに猛暑が続くこんな暑い日でも、俺の心はうんざりせずに済んでいる。これが独り暮しだったなら、俺は確実に夏の気候に文句を垂れているんだろうが。
清々しい青空を見上げ、太陽の光で瞳を閉じた俺は今日も1日頑張って仕事をしようと心に決めたのだった。
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