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第7話

変わらない日常3 洗濯を終え、自分の昼食と次いでに夕飯の準備をして。ひと通りの家事をした後、俺は通常通り職場へと向かった。 そして。 「イッシーは今日も早いねぇ、30分前に出勤してやることなんかあんの?」 自分のディスクに腰を下ろし、ボーッとしながら缶コーヒーを飲んでいる俺に声をかけてきたのは俺の先輩で同じスクールのコーチ、戸田 敦(とだ あつし)だ。 「先輩こそ、この時間に出勤してんですから似たようなもんッスよ。それより、チビ達と同じ呼び方で呼ぶのいい加減やめてもらえせんか?」 「んー、イッシーはイッシーでいいと思う。親しみやすいあだ名あるといいよね、イッシーだって俺のこと戸田っちって呼んでくれていいのに」 ニンマリ笑った先輩は、俺の肩をポンポンと叩いた後に自身のディスクに向かう。 学校が終わり塾のような感覚でサッカースクールに通う子供達は、低学年のクラスから中学生のクラスまで様々な年齢が集まるけれど。子供達からの信頼性を1番わかり易く表しているのが、各コーチに付けられたあだ名だ。 三十路を過ぎているのに戸田先輩はチビ達から戸田っちと呼ばれているし、俺は俺でイッシーなんて呼ばれている。チビっ子から親しみを込めて呼ばれる分には気にならないのだが、先輩からイッシーと呼ばれるのは未だに慣れなくて。 俺は毎度のように注意を促しているのだけれど、いつまで経っても呼び名を変えようとしない先輩を相手にしてしまうと、もう俺が諦めるしか方法はないのだろうと思った。 ……まぁ、だからと言って先輩のことを戸田っちって呼ぶ気はサラサラねぇーんだけど。 俺と同じくらいの身長で体格のいい先輩はイケイケのFWタイプ、仕事もできるし顔もいいから戸田先輩はスクール生からも保護者からも人気のコーチだ。 入社してまだ半年足らずの俺と先輩の差は大きく、全国各地にあるスクールの1校しか担当していない俺とは違って、先輩は3校を曜日によって掛け持ちしながら働いている。仕事において見習うべき点が多い先輩ではあるが、戸田先輩はあまり素行がよろしくないのが難点で。 「イッシー、今日の夜って付き合える?1時間だけでいいから飲みに行こ、人員不足なんだ」 ディスクの回転するイスの背もたれに頭を預けた状態で、ゆっくりクルクルと回りながら訊ねてきた戸田先輩。この人の飲みの誘いは100パーセント合コンの誘いで、人数合わせの為に俺を使おうとしてくるところが少しだけ癇に障るけれど。 「無理ッスね、夏の短期合宿の資料作成でそれどこじゃないですよ。人手不足なら合コン好きのダチに連絡しとくんで、時間と集合場所教えてください」 「毎回上手いこと躱されるなぁ……俺からの誘いを断んの、イッシーと竜崎先輩だけだぜ?他のコーチは喜んで着いてくるのに、2人とも真面目過ぎだな」 「先輩が集めてくる女性は上玉らしいッスね。でも、今の俺に女と遊んでる時間なんてないんです。俺は、仕事人間の竜崎さんに殺されたくないんで」

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