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第9話

小さな変化 1 (星side) 今日の朝、珍しくオレに甘えてきていた雪夜さんのことを思いながらも忙しいランチの時間帯を乗り切ったオレは、ランチ時間最後のお客様がいなくなったことを確認した後店の外へと向かう。 夜にまたバーとして開店するために一旦お店を閉めるため、オレがOPENからCLOSEへお店の扉にかけてある小さな看板を変えようとしていた時だった。 どこか見慣れた顔の2人がお店に近づいてきているのを見つけたオレの手が止まり、その2人が段々オレに接近してきて。 「おひさ、セイ」 「青月くん、お久しぶりっ!」 突然の訪問客、オレの幼馴染の坂野 弘樹(さかの ひろき)と、その恋人の西野 悠希(にしの はるき)君がお店にやってきたことにびっくりしたオレは、2人の顔をまじまじと見つめてしまう。 同じ高校の同級生だった弘樹と西野君は、オレとは違って2人とも大学生。それぞれ違う夢に向かって、弘樹は雪夜さんが通っていた大学へ、そして西野君は栄養学を学べる大学へと進学したんだ。 今でも小まめに連絡は取り合っていても、こうして顔を合わせるのは数ヶ月ぶりで。2人とも元気そうな表情を見せてくれたことが、オレは単純に嬉しいんだけれど。 「弘樹も西野君もお久しぶりだね。来るなら連絡くれれば良かったのに、オレびっくりしちゃって……あ、もしかしてデート中?」 まさか偶然の再会が仕事中に訪れることになるなんて思っていなかったオレは、ちょっぴり恥ずかしい気持ちを抱えたまま2人に問い掛けた。 「デートってか、セイの顔見にきた」 「青月くん、制服すっごく似合ってるよ」 爽やかスポーツ男子系の弘樹と、パッと見女の子のような容姿の西野君。お似合いのカップルを前にして、オレはどんな顔をすればいいのか正直分からないけれど。 「……あら、セイちゃんのお友達かしら?こんな暑い中で立ち話もなんだから、良かったら中へどうぞ」 久しぶりに友達に会えたのにオレは仕事中だから、なんだか2人に対して申し訳なく感じてしまったオレを助けてくれたのは、店の外へと出てきてくれたランさんだった。 「あの、本当にいいんですか?お邪魔ならこのまま失礼しますけど……なぁ、悠希?」 「うん、仕事中に押し掛けた僕たちが悪いし」 「えっと……なんかすみません、ランさん」 「セイちゃんもお友達も遠慮しないでいいの。ほらほら、みんな早く中に入りなさい。オカマは日光に当たると死んじゃうのよ?」 ランさんの優しい気遣いで、最初は遠慮していた弘樹と西野君にクスッと笑みが漏れて。 「お姉さん、冗談でしょ?ツッコミどころあり過ぎ、こんなに綺麗な人がオカマだなんて嘘だろ?」 ランさんがオカマだとは知らない弘樹はそう言いながら店内へ入って、その背中を追うように西野君も後に続く。 「嘘でもなんでもないわ、私は男よ。でも、なんだか気分がいいから今日は特別にサービスしちゃおうかしらね」 忙しいランチ時間がようやく終わって、本来ならランさんはゆっくりできる貴重な時間なのに。急な来客にも笑顔で対応するランさんは、やっぱり心の大きな人なんだってオレは思った。

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