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第10話

小さな変化 2 「2人とも、昼食は済んでいるのかしら?まだならご馳走するわよ、私のおまかせでよければだけどね」 「いいんですか?じゃあ、遠慮なくご馳走になりますッ!!」 「良いお返事ね、セイちゃんもお友達と一緒に休憩してちょうだい。お疲れ様、セイちゃん」 「ランさん、色々とありがとうございます」 オレ達に声を掛け、奥の厨房へと消えていくランさんの背中にオレはペコりと頭を下げて。キョロキョロと店内を見渡し、落ち着かない様子でカウンター席に座っている弘樹と西野君にオレはおしぼりとお水を差し出した。 「顔見に来ただけだったのに、なんか気を遣わせて悪いな……セイのこと驚かしたくて連絡なしに来ちまったけど、やっぱちゃんと連絡するべきだった」 「だから言ったのに、弘樹くん久々のデートに浮かれて僕の話聞かないんだもん」 「オレは気にしてないから大丈夫、ランさんもご機嫌みたいだから今日はお言葉に甘えるよ」 カウンターを挟んで友達を見る日が来るなんて、高校の時のオレには考えもつないことだったけれど。今となってはこれが自然なことのように思えて、オレは普段ランさんが休憩する時に使う小さなパイプイスに腰掛ける。 「青月くん、3年生の時は進路で色々悩んだけど良い職場で良かったね。弘樹くんも僕も、本当はもっと早くに来たかったんだけど……入学してから夏休みに入るまでは僕たちも忙しくて、なかなか時間取れなかったんだ」 「お互いにバイトもあるし、講義以外にもサークルとかで時間取られるし。バイト先の浅井先輩にレポートの話聞いても、あの人ちっとも役に立たねぇしな」 数ヶ月前までは同じ制服を着て、同じ学校へ通っていた友達。弘樹は雪夜さんに憧れているからか、弘樹のバイト先は雪夜さんが以前バイトしていたスポーツショップ。西野君はファミレスのキッチンで頑張っているらしく、2人とも忙しい毎日を送っているみたいで。 毎日のように顔を合わせていた過去と現在では、お互いに知らないことが沢山あるけれど。 「オレは、大変なこともあるけど毎日充実してるよ。ランさんや雪夜さんにいっぱい支えられて、その度に頑張ろうって思えるから」 学生時代には得られなかった経験をしている今だからこそ、進路に悩んだ日々も必要なことだったんだって感じられるのは悪いことではないと思うんだ。 「素敵なことだよね、僕なんか毎日女の子に囲まれてやになっちゃう。栄養士専攻の男って、片手で数えられるくらいしかいないんだもん」 「俺は逆にその方が安心なんだけどなぁ……悠希ってその辺にいる女子より可愛いから、なにかあったら俺が困る」 「それを言うなら弘樹くんの方が心配だよ、大学でもバイト先でも女の子から声掛けられてるくせに」 プイッとそっぽ向いてしまった西野君と、そんな西野君を宥めようと西野君の肩を抱く弘樹。高校を卒業しても2人仲良くしているところを見ると、なんだか微笑ましいけれど。 相変わらず人目を気にせずイチャイチャできる弘樹と西野君は、もう少し周りのことを考えた方がいいんじゃないのかなって思ってしまった。

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