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第14話

小さな変化 6 卵と向き合い数分後、オレは結局ゆで卵を花型に切って2人分のサラダを作った。その後は干してある洗濯物を取り込んで、仕事用のシャツにはアイロンがけをして。オレはむかし話のお婆さんみたいに、1人せっせと家事をしていた。 でも、それも思ったより時間はかからなくて。 暇な時間を持て余しそうになった時、オレのスマホが鳴ったから。 夕方から夜に切り替わるこんな時間に一体誰だろうと思いつつ、オレはソファーに腰掛けてスマホを手に取った。 『星、元気にしてる?』 耳に当てたスマホから聞こえる声は母さんの声で、優しく問いかけられた言葉にオレは頷きながら返事をする。 「うん、オレも雪夜さんも元気だよ。ごめんね、なかなかそっちに帰れなくて」 『気にしないでいいのよ。雪夜君と仲良くやってるのなら、親の出る幕なんてないんだから。ただ、今年の夏は猛暑続きで2人は体調を崩していないかって……父さんが1人で心配してるから、電話してみただけよ』 クスッと笑ってそう言った母さんよりも、オレと雪夜さんのことを心配しているのはオレの父さんらしい。母さんも父さんも、雪夜さんのことを自分の息子のように可愛がっているけれど。 口下手な父さんはきっと、自分の口から心配していることをオレや雪夜さんに伝えられないから。だからこうして、父さんの代わりに母さんが連絡をしてきたんだなってオレは思った。 「オレも雪夜さんも元気だから心配しないでって、父さんに伝えて。雪夜さんがね、そのうちお邪魔したいってこの間言ってたから……時間が出来たら2人で帰る予定だよって、心配症の父さんに言ってあげてね」 『ふふ、分かったわ。星には変な気を使わせちゃったかしらね、雪夜君にも無理しないでって伝えてくれるかしら?』 「うん、オレから雪夜さんに伝えておくよ。母さん、ありがと」 実家にいた時には当たり前だった親との会話、それも家から出れば必然的に減っていくけれど。オレの実家から今の住まいまではそんなに遠くない距離にあるから、会おうと思えばいつでも会えるはずなんだ。 でも、お互いに気を遣ってしまってオレも両親も互いの家を行き来することは今までになくて。心配させるつもりなんて全くないのに、両親からすればオレはいつまでも子供のままだから……ちょっぴり迷惑に感じてしまう父さんからの心配も、ありがたく受け取っておこうと思えた。 本当は、母さんや父さんに話したいことが沢山ある。だけど、いざ話そうと思うと何処から話したらいいのか分からなくて。 なんだかよそよそしい感謝しか伝えられなかったことを、オレは電話を切った後に気づいて少しだけ寂しくなってしまった。 両親のことも、兄ちゃんのことも。 オレは、家族が嫌いで家を出たわけじゃない。 ただ、オレは家族よりも雪夜さんと暮らすことを選んだだけなんだ。だから、たまには家に帰ってもいいのかなって……そんなことを思いつつ、オレはスマホを握り締めたままいつの間にかソファーで眠りについてしまっていた。

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