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第15話

小さな変化 7 ゆらゆら揺れる柔らかい揺りかごは、心地よい温かさ。まるで赤ちゃんに戻ったみたいに、安心できる腕の中で抱っこされているような気分。 なんて。 ……あれ。 気分の、はずだけれど。 「あ、ごめんな。起こしちまったか?」 ぼんやり開けた瞼の向こうで、申し訳なさそうにオレの顔を見つめる雪夜さんがいて。オレは無意識に雪夜さんに抱き着きながら、小さく首を横に振る。 「……ゆきぁ、しゃん」 「ただいま、星くん。お前ソファーで寝てたからとりあえずベッドまで連れてこうと思ったんだけど、起きる?それともこのまま寝る?」 雪夜さんの帰宅を待つ間、オレはソファーで眠ってしまっていたらしい。そして、雪夜さんは帰宅してからそんなオレをお姫様抱っこして寝室へ移動する途中だったみたいで。 「ん、起きる……おかえりなさい、雪夜さん」 夢の中にいても、雪夜さんがオレを抱っこしてくれていたことをオレは感じ取っていたんだなぁって。ボーッとした頭でおかしなことを考えているオレは、雪夜さんの腕の中からゆっくりソファーへ降ろしてもらった。 でも、リビングの電気は消えていて薄暗い室内でオレは目を擦る。すると、パッと室内が明るくなり、オレは眩しさでぎゅっと目を瞑ってしまうけれど。 「まだ眠そうな顔してんな。帰る時にLINE入れたけどお前から返事なかったから、寝てんじゃねぇーかなとは思ってたけど……やっぱり、星くんはソファーで寝てたのな」 疲れが残る顔をしながらオレのことを気遣ってくれた雪夜さんは、片手でネクタイを緩めつつオレの頭をくしゃりと撫でる。 子供たちとサッカーをしている時間以外の出退勤時は、基本的にスーツを着ている雪夜さん。スーツ姿の雪夜さんってとってもカッコイイから、オレのトキメキゲージの針はすぐに振り切ってしまうのに。 寝起きの頭には刺激が強い雪夜さんの姿に、オレはドキドキしつつも雪夜さんが脱いだスーツのジャケットを手に取った。 「寝るつもりじゃなかったんですもん……あ、そうだ。雪夜さんお腹すいてますよね、準備するのでちょっと待っててください」 「急がねぇーでいい、お前も疲れてんだろ。カフェオレ淹れてやるから、そこで少しのんびりしとけ」 「そう、ですか……分かりました」 オレはコクンと頷き返事をしたけれど、雪夜さんの声は疲れているからか少しだけ低めに響いて。オレがジャケットから取り出した煙草をローテーブルの上に置くと、雪夜さんはそれを手に取りキッチンに向かってしまう。 弘樹と西野君がお店にきてくれたことや、母さんから電話があったこと。オレから雪夜さんに色々と話したいことがあるけれど、なんだか今は話し掛けちゃいけない気がして……オレはまだ眠たいフリをしながら、雪夜さんの様子を伺うことしかできなくて。 煙草を咥えて紫煙を吐き出す雪夜さんの眉間には皺が寄り、無言のままコーヒーを淹れている雪夜さんの姿を見ていると、オレは眠っていたままの方が良かったのかもしれないって思ってしまったんだ。

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