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第16話
小さな変化 8
「ん、コレお前のカフェオレ」
ローテーブルにコトンと置かれた2つのマグカップ、1つは雪夜さんのコーヒーでもう1つがオレのカフェオレ。オレの前に置かれているマグカップに手を伸ばし、オレは雪夜さんに視線を送った。
「星、どうした?」
「いや……えっと、ありがとうございます」
何をどう話したらいいのか分からなくて、でもカフェオレのお礼は言いたくて。取ってつけたような感謝を述べたオレは、すぐに雪夜さんから視線を逸らしてしまうけれど。
オレ好みの甘めのカフェオレはいつも通りの味で、ちょっぴり和んだオレの心を見透かすように、雪夜さんはクスッと笑うとオレの膝に転がってきて。
「気遣ってもらえんのは嬉しいんだけどよ、無理しなくていいから。お前、俺に話てぇーことあるんじゃねぇーの?」
部屋着のパーカー姿のオレと、まだワイシャツ姿の雪夜さん。ソファーに寝っ転がったらシャツに皺が寄っちゃうとか、先に着替えた方がいいんじゃないかとか。
色々と今の雪夜さんに言いたいことはあるけれど、でもそんなことよりも雪夜さんがオレに甘えてきてくれたことが嬉しかったから。
「雪夜さん、あのね……オレ、あのまま寝てた方が良かったのかなって思っちゃったんです。雪夜さん疲れてるみたいだし、なんだか話し掛けちゃいけないような気がして」
柔らかい雪夜さんの髪に触れながら、オレは思っていたことを口にする。すると、オレの膝の上で仰向けになっていた雪夜さんがオレの腰に手を回して抱き着いてきて。
「……ごめんな。職場で色々あって、今日は少し余裕ねぇー感じで帰ってきたからメシより先にお前とこうしたかっただけなんだよ。怒ってるわけじゃねぇーし、俺は星くんの話が聞きてぇーから」
マグカップを片手に持っていることもあって、雪夜さんの表情がオレからは見えないけれど。コーヒーを淹れる前よりトーンが和らいだ雪夜さんの声に安心したオレは、さっきまで感じていた妙な緊張感から開放されたから。
「雪夜さん、今日は弘樹と西野君がお店に来てれたんです。突然のことでびっくりしましたけど、2人とも元気そうでした」
雪夜さんの頭をよしよしと撫でつつ、オレは雪夜さんに今日あった出来事を話していく。
「そっかぁ、アイツらは大学生か……夏休みバンザイだな、俺らには関係ねぇー休みだけど」
「そうみたいですね。でも、サークルとかバイトとかで2人とも夏休み入るまではなかなか会えなかったみたいですよ?」
「弘樹のバカは、康介のバカと一緒にバイトしてるらしいじゃん。俺もお前も、今年の3月までは学生だったことがウソみてぇーだ……俺、星くんと同棲してなかったら今頃死んでるぜ?」
学生の時も雪夜さんはバイトに学業に、それからコーチとしての研修だってあったから。学生だからと言って、オレと雪夜さんが自由に会えるわけではなかったけれど。
でも、お互いに働いている今の状態で同棲していなかったら……オレと雪夜さんが会う回数は極端に少なくなっていたんだろうと思う。
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