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第18話

小さな変化 1 (雪夜side) 「夏野菜がたっぷり入ったカレー、とっても美味しかったです。明日はもっと美味しくなってるんでしょうね、カレーは2日目の方が美味しいって言いますし」 「確かに寝かせた方が美味いって言うけど、作り過ぎには注意しなきゃなんねぇーんだよなぁ……頑張っても2日が限度だろ、毎日カレーじゃさすがに飽きる」 「煮込み料理系は大量調理の方が旨味が増す感じがしちゃいますけど、オレたち2人しかいませんもんね」 疲れを癒す安らぎの時間に、俺と星は食事を済ませて風呂に入って。遅めの時間帯に昼寝していた星くんは、時計の針が11時を指しても目が冴えているから。 風呂上がりの仔猫の髪をドライヤーで乾かしつつ、俺は夕飯のカレーについての話をしている星くんとの会話を楽しんでいる最中だったが。 「……あ、カレーで思い出したんですけど、そういえば今日の夕方母さんから電話があったんですよ」 ……ドライヤーの温風の音に掻き消されそうな星の声を聞き取れる俺ってすげぇーわ、なんて。 アホなことを思っていた俺に、星は2日目のカレーより重要なことを話し始めた。 ただ、どうしたらカレーから親の話を思い出せるのかは謎でしかないけれど……俺は星の話をしっかりと聞いてやるため、ある程度髪が乾いたことを確認してからドライヤーを切り星に問い掛ける。 「幸咲さん、なんて言ってた?」 星の母親は、青月 幸咲(あおつき さきえ)さん。 男同士の付き合いを認めてくれ、赤の他人の俺を家族として迎え入れてくれる人。そんな幸咲さんから俺は、名前で呼ぶように促されているから。 まだ少し違和感が残る呼び名ではあるが、俺は少しずつ慣らすために星の母親を幸咲さんと呼ぶように心掛けていて。そんな俺に星くんは嬉しそうに笑い掛け、そして話を続けていく。 「んーっと、母さんは特に用がなかったみたいなんですけど。無理しないでねって、雪夜さんに伝えてほしいって言ってました」 「用がねぇーのに電話してきたってことは心配されてんな、俺たち」 「うん……でも、心配してるのは母さんより父さんの方みたいで。毎日暑い日が続いてるから体調を崩してないかって、父さんの代わりに母さんが連絡してきたみたいです」 「お前と一緒で照れ屋な父親だもんな。俺たちからしたら、あの仲良し夫婦が猛暑で倒れてねぇーかの方が心配だけど」 幸咲さんを心底溺愛している星くんの父親は、性格が星とよく似ている。星が父親に似ていると言った方が正しい表現になるんだろうが、俺の基準は星くんだから。 照れ屋で恥ずかしがり屋な可愛い恋人の髪に触れた俺は、艶やかな指通りの髪を掬い、くしゃりと星の頭を撫でてやる。 「そのうち顔見せに行かないと……オレ、母さんに雪夜さんがお邪魔したいって言ってるからって言っちゃったんですよ。話の流れ的に、そう言わないといけない気がして」 「んなこと気にすんな。俺もそろそろ顔出した方がいいんじゃねぇーかと思ってたし、逆に星くんがそう伝えてくれてよかった」

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